質問者:
教員
むーむー
登録番号1893
登録日:2009-01-11
生物の生活環の授業をしていて気になったことが3つあります。みんなのひろば
コケ植物とシダ植物の生活環について
1、種子植物は、花粉が運ばれ多くの場合別個体に受粉するのに対し、コケ植物やシダ植物では、精子が、同じ個体の造卵器に辿り着くように図表などの図ではみえます。コケ植物とシダ植物は自家受精しか行わないのでしょうか?
2、コケ植物とシダ植物やでは胞子によって分布を広げますが、種子植物では種子によって分布を広げます。胞子ではなく種子である利点はどのようなところにあるのでしょうか?
3、コケ植物では配偶体として雄株と雌株がありますが、これは胞子の段階でどちらになるかが遺伝的に決まっているのでしょうか?
質問が多くなってしまいましたが、宜しくお願いします。
むーむー様
みんなのひろばへのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答をコケを材料にご研究をなさっておられる基礎生物学研究所の長谷部先生にお願いいたしましたところ以下のような詳しいご回答をお寄せ下さいました。大変長い間お待たせ致しましたが、納得して頂けるご回答が頂けたものと思っています。しっかり勉強して下さい。
1.シダ植物やコケ植物も種子植物と同じく、他家受精と自家受精を行うものが知られています。両者をどのくらいの割合で行うかは、種子植物同様種類によって異なります。自家受精は1個体のときでも子孫を残せるメリットがありますが、近親交配の悪影響のデメリットがあります。一方、他家受精は近親交配の悪影響を減らせるメリットがありますが、交配しなければならないリスクがあります。シダやコケの場合、造卵器と造精器が近接していますが、他家受精する種では成熟時期が違ったりします。また、一部のシダでは、積極的に他家受精を行うために、最初に胞子発芽してできた前葉体がアンセリディオーゲンというフェロモンを出し、後から発芽してできた前葉体を雄にしてしまいます。
2. 古い教科書には、種子は、乾燥耐性、動物に食べられても生存できる、胚への栄養分の供給ができるなどの点で胞子より優れていると書かれていたりします。しかし、胞子についても、乾燥耐性はありますし、動物に食べられても生き残りますし、配偶体から胚への栄養補給ができます。また、ジェット気流を使って広く散布されたりします。現在でもコケ植物やシダ植物が生き残っているのは、胞子生殖が種子生殖同様陸上生活に適応しているからです。両者がともに存在していることは、環境状況など時と場合によって、どちらかが他方よりより有利になる状況がいろいろあるからだと思われます。また、胞子繁殖は有性生殖に水が必要だから乾燥に弱く、種子植物の方が乾燥に適していると書いてあることもあります。これも眉唾です。種子が発芽して、水が豊富にあるところまで根を伸ばすには、水がいります。それだけの水があれば、シダやコケの受精には十分でしょう。種子植物が生きられないような乾燥したところ(たとえばアスファルトの隙間とか高山の岩石の上とか)にコケは元気に生きています。どうして種子繁殖と胞子繁殖を両方するものがいないのかは種子の形成過程を考えるとわかります。種子は胚珠からできます。胚珠の中には珠皮に覆われた珠心があります。珠心の中で減数分裂がおこりますので、珠心はコケやシダの胞子嚢に相同です。珠皮は種皮になります。つまり、珠心(胞子嚢)は種子の中に含まれてしまいます。つまり、種子を作るということは珠心(胞子嚢)を破裂させることができない、すなわち、胞子繁殖ができないということです。構造的に種子繁殖と胞子繁殖は共存できないのです。
3. 遺伝的に決まっている場合と環境条件によって決定される場合があります。例えば、ゼニゴケの場合は、性染色体があって、胞子の段階で遺伝的に性が決まっています。蘚類のオオツボゴケの仲間(Splachnum rubrum)は胞子の段階で雄雌が決まっていますが、雌を長期培養すると造精器を作るようになります。また、アミノ酸の種類によって、造卵器を誘導したり造精器を誘導したりすることができるタイ類の仲間もあります。
以上です。
長谷部 光泰(基礎生物学研究所)
みんなのひろばへのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答をコケを材料にご研究をなさっておられる基礎生物学研究所の長谷部先生にお願いいたしましたところ以下のような詳しいご回答をお寄せ下さいました。大変長い間お待たせ致しましたが、納得して頂けるご回答が頂けたものと思っています。しっかり勉強して下さい。
1.シダ植物やコケ植物も種子植物と同じく、他家受精と自家受精を行うものが知られています。両者をどのくらいの割合で行うかは、種子植物同様種類によって異なります。自家受精は1個体のときでも子孫を残せるメリットがありますが、近親交配の悪影響のデメリットがあります。一方、他家受精は近親交配の悪影響を減らせるメリットがありますが、交配しなければならないリスクがあります。シダやコケの場合、造卵器と造精器が近接していますが、他家受精する種では成熟時期が違ったりします。また、一部のシダでは、積極的に他家受精を行うために、最初に胞子発芽してできた前葉体がアンセリディオーゲンというフェロモンを出し、後から発芽してできた前葉体を雄にしてしまいます。
2. 古い教科書には、種子は、乾燥耐性、動物に食べられても生存できる、胚への栄養分の供給ができるなどの点で胞子より優れていると書かれていたりします。しかし、胞子についても、乾燥耐性はありますし、動物に食べられても生き残りますし、配偶体から胚への栄養補給ができます。また、ジェット気流を使って広く散布されたりします。現在でもコケ植物やシダ植物が生き残っているのは、胞子生殖が種子生殖同様陸上生活に適応しているからです。両者がともに存在していることは、環境状況など時と場合によって、どちらかが他方よりより有利になる状況がいろいろあるからだと思われます。また、胞子繁殖は有性生殖に水が必要だから乾燥に弱く、種子植物の方が乾燥に適していると書いてあることもあります。これも眉唾です。種子が発芽して、水が豊富にあるところまで根を伸ばすには、水がいります。それだけの水があれば、シダやコケの受精には十分でしょう。種子植物が生きられないような乾燥したところ(たとえばアスファルトの隙間とか高山の岩石の上とか)にコケは元気に生きています。どうして種子繁殖と胞子繁殖を両方するものがいないのかは種子の形成過程を考えるとわかります。種子は胚珠からできます。胚珠の中には珠皮に覆われた珠心があります。珠心の中で減数分裂がおこりますので、珠心はコケやシダの胞子嚢に相同です。珠皮は種皮になります。つまり、珠心(胞子嚢)は種子の中に含まれてしまいます。つまり、種子を作るということは珠心(胞子嚢)を破裂させることができない、すなわち、胞子繁殖ができないということです。構造的に種子繁殖と胞子繁殖は共存できないのです。
3. 遺伝的に決まっている場合と環境条件によって決定される場合があります。例えば、ゼニゴケの場合は、性染色体があって、胞子の段階で遺伝的に性が決まっています。蘚類のオオツボゴケの仲間(Splachnum rubrum)は胞子の段階で雄雌が決まっていますが、雌を長期培養すると造精器を作るようになります。また、アミノ酸の種類によって、造卵器を誘導したり造精器を誘導したりすることができるタイ類の仲間もあります。
以上です。
長谷部 光泰(基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2009-02-14
柴岡 弘郎
回答日:2009-02-14