一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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葉の形を制御する遺伝子について

質問者:   会社員   安倍晴明
登録番号1900   登録日:2009-01-21
葉の形から見た植物のこころ=自然界での多様性と遺伝子の働き
葉の形態を制御する遺伝子
上記、記事を興味深く拝見いたしました。
上記研究の検体は、有性生殖による繁殖個体の個体差を研究されたものと思われますが、私が趣味で育てている園芸植物のセントポーリアを無性生殖(葉挿し)により繁殖しましたところ、葉の長さと幅の個体差が大きく生じました。
その様子は、下記のブログに写真と共に掲載しております。
http://myhome.cururu.jp/seimei999/blog/article/21002476642
葉挿しでの繁殖は、クローン繁殖と同様のメカニズムと思います。変異個体も生じるとは思いますが、この様な変異もありえるものでしょうか。
また、葉の形状の違いにより、成長に差が生じましたが、葉の形態を抑制する遺伝子のなせる仕業でしょうか。
ご教授の程、宜しくお願い申し上げます。
安倍晴明さま

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問はやっぱり塚谷先生にお答え願わなければと、塚谷先生に時間の余裕ができるまで待っておりましたので、大変お待たせすることになってしまいました。我慢強く待っていて下さり有難うございました。それでも頂いた回答は多分お役に立つものと思います。参考になさって下さい。


安倍晴明さま
ご質問ありがとうございます。また拙文を読んでいただき、感謝します。
葉挿しの繁殖は、ご指摘の通りクローン繁殖に違いありません。そのため、ふつうは親個体と変わらない子が生えるものです。ご質問にあった事例について、ブログを拝見いたしましたが、たしかに葉の縦横比が変わっているようにも見えます。ここで気になるのが、この品種の葉に斑が入っていることです。トミー・ルー斑でしょうか。このような斑が入るということは、1枚の葉を取ってもその細胞一つ一つについてみると必ずしも遺伝的に均一ではないと言うことでしょう。そういう場合、クローン繁殖をしても、その再生する場所にたまたまあった細胞の性質を引き継いでしまいますから、親とは若干異なることもあり得ます。
その典型例は、チトセラン(サンスベリア)で見られます。黄色い覆輪模様の入った品種が一般的に普及していますね。あれも葉挿しで繁殖できますが、困ったことに黄色い覆輪の品種であっても、葉挿しだとその斑が消えてしまいます。これは、葉の切り口にある細胞のうち、緑の細胞ばかりが再生に参加するからです。これに似たことが起きている可能性も否定できません。
またもう一つ考えられるのは、いわゆる枝変わりです。セントポーリアはときどき、ブログでもお書きのように、枝変わりを起こします。これはおそらく、遺伝子の間にトランスポゾンのようないたずら者がいて、これがときどき位置を変えて動き回るために、突然変異が起きるからではないかと思います。そういうことが起きてた突然変異の細胞も、他のオリジナルの遺伝子セットを持った細胞の中に埋まっている間は、周りにあわせて大人しくしているものなので、ふだんは気付きません。しかし葉挿しのような特別な状況に置かれて、自分で好きにして良いということになると、素地を表すということもあり得ます。この可能性も低いながらあると思います。
ちなみになぜ後者の可能性の方が低いと思うかといいますと、突然変異はやはり稀な現象ですし、その突然変異が表に形として現れるには、いろいろな条件をクリアしなくてはなりません(あり得なくはありませんが)。ですので、たぶん、前者の方ではないでしょうか。
いずれにせよ、ご推察のように、葉の形を決める遺伝子のところの変異だろうと思います。
それにしても今はセントポーリアも非常に華麗な品種が増えましたね。私が中学生の頃は、地元のセントポーリアの会の展示会を見に行ったりもしていましたが、当時から見ると雲泥の差です。面白い質問をありがとうございます。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科・教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2009-02-14