一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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水草が赤色化する原理を知りたいです

質問者:   公務員   浩之
登録番号1901   登録日:2009-01-25
初めて質問します。
私は趣味でアクアリウム(水草水槽)をしている者です。

観賞用としての水草の中で、環境によって赤色になったり緑色になったりする赤系といわれる水草があります(例: ロタラ・インディカ R. indica)。アクアリウムの世界では、経験的に好環境になったときに赤色を示すとされています。特に「光量と鉄」を多く与えることが、赤色化させるのに重要というのが定説です。
私はこの中で光はまだしも、何故必須微量元素である鉄のみが重要とされているのかわかりません。

そこで質問です。
1、水草が赤色化する原理は?
2、赤色化する上で「高光量と鉄」が本当に必要なのか?

或いは必要だとして、
3、特定の波長の光が、赤色化を誘導しやすいといったことがあるのか?
4、鉄以外に重要な元素はあるのか?

以上です。

尚、私は学生の頃に植物系バイオサイエンスを学んでいたので、有る程度なら専門的なお答えでも理解できると思います。加えて、可能な限り詳しく知りたいので、水草の生理に関するお勧めの本や文献などが有る場合、紹介していただければ幸いです。

お手数ですが、よろしくお願いします。
浩之 様

質問コーナーへようこそ。
ある種の水草の赤色化についての下記のご質問にお答えします。水草の栽培に関する技術的なことは分かりませんが、生理学的な面からの回答とします。


1、水草が赤色化する原理は?

回答:栽培条件によって赤色化が起きるのはクロロフィルが分解されてアントシアニンが合成されるからだと思います。紅葉する樹木の葉にはクロロフィル以外にカロテノイドが含まれており、秋になってクロロフィルの分解が起きると、イチョウのようにカロテノイイドの黄色が表にでてきます。また、クロロフィルの分解にともなってアントシアニンの合成が促進され、モミジのように赤〜青・紫の色を呈する植物もあります。
したがって、Rotala indicaを例とする水草の赤色化はこれと同じような理由による考えられます。つまり、クロロフィルが消失し、アントシアニンの合成がすすむためということです。


2、赤色化する上で「高光量と鉄」が本当に必要なのか?
3、特定の波長の光が、赤色化を誘導しやすいといったことがあるのか?

回答:赤色化がクロロフィルの消失とアントシアニンの合成によるとすれば、それが起きるのはどういう条件かを考えてみましょう。
Rotalaの仲間は南方系の水草で光量のとても高い条件で生育しているようです。だとすると、直接太陽光を受ける上部の葉ではクロロフィルは分解されやすのでしょう。アントシアニンの合成を誘導する原因はいろいろあるようで、明確には分かっていません。太陽光が強いということは紫外線も強いので、その害から守るために、紫外線を吸収するアントシアニンができることも考えられます。赤色化をもたらすのに最も有効な波長については知識がありません。しかし、光量が非常に高い(光エネルギー過剰)条件では葉緑体内で活性酸素が発生し、これが葉緑体を衰えさせて、クロロフィルの分解をもたらします。その意味で、光エネルギーの高い光条件で育てるのが望ましいように思います。あるいは、適度の紫外線が加わると良いのかもしれません。


4、鉄以外に重要な元素はあるのか?

そのような研究をした報告は知りません。栽培をしておられる方は様々な培地を試みられているはずですので、特定の無機イオンと赤色化の関係を経験的に知っておられるかもしれません。調べてみて下さい。ただ、鉄イオンが赤色化を促すことについては説明がつくと思います。クロロフィルの合成はprotoporphyrin IX からMg-chelataseの働きで Mg-protoporphyrin IXになり、それからchlorophyll aが形成されます。しかし、protoporphyrin IXは chlorophyllの前駆体であるだけでなく、MgではなくFeとキレートしてチトクロムなどのヘム化合物の前駆体でもあります。この場合 Fe-chelataseという別の酵素が触媒します。このことを考えると、過剰の鉄イオン(2価)の存在は protoporphyrin IXの protoheme への転換が進み、Mg-protoporphyrinIXへの転換を抑えることとなり、結果的にクロロフィル量の減少をもたらすということも考えられます。しかし、これは憶測ですが。


>水草の生理に関するお勧めの本や文献などが有る場合、紹介していただければ幸いです

回答:Aquatic plants の physiologyに関する書籍は多数ありますが、ほとんどは海水植物のものです。aquariumで栽培する植物だけを扱った生理学的な書籍は知りません。日本語ではないと思います。英語の参考文献ならinternet で検索してみて下さい。water plants/ fresh water plants などで調べると見つかるかもしれません。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-02-09