一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物のDNAについて

質問者:   中学生   さかさい
登録番号1904   登録日:2009-01-30
先日は、丁寧な回答をありがとうございまいた。
やはり、クローバーでカルス形成をやりたいのですが、そもそも植物のDNAは、葉や茎など、部分によってDNAは違うのですか?
さかさい さん

ところでDNAというのはどういう物質であるかは知っていると思いますが、ここでも簡単に説明しておきます。植物に限らず全ての生物は、それぞれの一生、つまり、受精-発生-成長-老化-死にいたる過程は受精卵のときに持っている遺伝子の情報に基づいてすすめられます。DNAは遺伝子の化学的な名前の略称で、細胞では核の中にしまわれています。それぞれの生物が持っている遺伝子のまとまりをゲノムと呼びますが、ゲノムの違いが生物に違いをもたらすといえます。

さて、植物のような多細胞生物では、いずれも一個の受精卵(細胞)が細胞分裂を繰り返して様々な形や働きをもった細胞が作られ(これを細胞の分化といいます)、様々な器官ができて個体が形成されます。だから、個体を作っている全ての細胞は、元はといえば一個の細胞が増えてできたものです。ヒトの体は60兆以上の細胞からできていますが、これも一個の細胞から始まっています。したがって、体の細胞の数が多くても少なくても、形がちがっても、どの細胞も受精卵のときのゲノムを受け継いでいます。いいかえれば、体のどの細胞もその生物の一生を決める遺伝子の情報をもっているのです。だから、葉や茎や根などの細胞はどれも同じゲノム、つまり同じDNAを持っています。植物ではこれを知る良い方法があります。葉や茎などから新しい個体を再生することが容易ですね。もし、葉や茎が別々のDNAを持っていたら、そういうことはできません。このことについては別の質問の回答(登録番号1881)なども参考にして下さい。


さかさいさんの疑問は、「同じDNAがあるならなぜ葉や茎などの異なる形態ができるのか」ということではないかと想像します。細胞が持っている遺伝子はどれもすべて、いつの時にも、働いているわけではありません。遺伝子が働くというのは、「遺伝子が発現する」といいますが、この遺伝子発現は秩序良く調節されていて、必要なときに必要な遺伝子だけが発現される仕組みができています。だから、例えば、葉ではそれがつくられる時にはそのために必要な遺伝子が発現します。葉と根を比べてみると、葉は光合成をするので、葉の組織には光合成に必要な構造や機能が備わった細胞がありますが、根にはありません。しかし、根の細胞もそれらの遺伝子は持っているのです。ただ、発現しないだけです。ゲノムの遺伝子の大部分は基本的な生命活動を維持するために必要なので、これらはどの細胞でも常時発現しています。それ以外は体の場所(組織)によって発現している遺伝子は異なりますし、また、個体の年齢や一日の時間によっても異なってきます。


以上のことから、質問への回答は『No』です。しかし、「葉や茎など、部分によって発現しているDNAは違うのですか?」という意味なら、『Yes』です。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-02-09
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