一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花びらのようになった、ユリのおしべについて

質問者:   その他   K.G.
登録番号1910   登録日:2009-02-11
買ってきた切花のユリで、内花被の内側のおしべは正常なのですが、外花被の内側のおしべが花びら状になっているものが一輪ありました。(正常のおしべと花びら状のものとが交互になっている状態。)花びら状になったものの縁には、少しですが花粉がついている部分もあります。

見ていると、なぜ3本ずつにきれいに分かれているのだろうと不思議に思いました。
外花被側のおしべと、内花被側のおしべでは、遺伝子の発現機構に違いがあるのでしょうか?
ユリではガクが花びらのようになっていますが、それと何か関係があるのでしょうか。

それから、八重咲きのユリがあるようですが、これはABCモデルのC遺伝子が発現していないためと考えてよいでしょうか?

以上よろしくお願いいたします。
K.G 様


ご質問ありがとうございます。3つの項目に分けて、お答えしたいと思います。

(1) ユリの花の構造について
 ユリやチューリップの花被は6つの花被片から構成されています。
外側3枚、内側3枚でそれぞれ外花被片、内花被片と呼ばれています。雄しべは6本ありますが、隣同士互い違いに外側3本、内側3本に分かれています。雌しべは1本ですが、柱頭を見ると3つに分かれており、3枚の心皮から構成されているのが分かります。
このように、ユリやチューリップのような単子葉植物の花は3を基本とした構造になっています(三数性)。


(2) ユリの6枚の花被はなぜ花弁状なのか?
 双子葉植物の花は、基本的にがく片、花弁、雄ずい、雌ずいの4つの器官から構成されています。

この花の器官形成に関してはご質問の中にあるABCモデルによって説明されています。(クラスA遺伝子のみが働くとがく片、クラスA遺伝子とクラスB遺伝子が同時に働くと花弁、クラスB遺伝子とクラスC遺伝子が同時に働くと雄ずい、クラスC遺伝子のみが働くと雌ずいが形成されるというものです。詳しくは「植物まるかじり叢書」(http://jspp.org/publication/commerce/#marukajiri )第3巻 花はなぜ咲くの?4章をご参考下さい。)ユリやチューリップでは2層の花被がどちらも花弁状になっていますが、これはABCモデルのクラスB遺伝子の発現領域が一番外側の器官まで拡大するために、花被が2層とも花弁状になっていると考えられています(改変ABCモデル)。

ユリとチューリップのクラスB遺伝子の発現を調べてみると、確かに雄ずいと外花被片、内花被片で発現しており、改変ABCモデルを支持する結果が得られています。(ただ、遺伝子を破壊したり発現を抑制したりした研究はまだ報告されておらず、本当にこのモデルが正しいと証明されたわけではありません。)

(3) 八重咲きのユリについて
八重咲きのユリには、雄ずいのみが花弁化している品種や、雄ずいだけでなく雌ずいまで花弁化している品種もあります。
八重咲きユリのうち‘アフロディーテ’という品種では、雄ずいが6本とも花弁化しており、雌ずいの先端もかすかに花弁化しています。この品種を用いてABCモデルのクラスC遺伝子の発現を解析したところ、雌ずいでは発現がみられましたが、花弁化した器官(もともとは雄ずい)では発現がみられませんでした。クラスC遺伝子自体に変異があるかどうかはまだ分かっていませんが、八重咲き化にはクラスC遺伝子が発現していないことと関係があるのは確かです。

ご質問にある切花のユリは雄ずいのうち3本が花弁化しているとのことですが、上記の八重咲き変異の弱い表現型と考えられます。おそらく6本の雄ずいのうち、外側の雄ずいにおけるクラスC遺伝子の発現が減少したものと考えられます。


東北大学大学院生命科学研究科
菅野 明
回答日:2009-02-27