一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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頂芽優勢のしくみ

質問者:   教員   しろしま
登録番号1913   登録日:2009-02-17
高校の生物で使用している問題集の中に以下のような問がありました。
*問の背景となるような実験、ヒントはなし。

 問 頂芽優勢のしくみとして適当な説明を次の選択肢から選べ。
   (1)頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の部分まで移動し、直接作用してその成長を抑制している。
   (2)頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の成長を抑制するサイトカイニンの合成を促進している。
   (3)頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している。

 答 (3)

(1)は誤りなのでしょうか?
頂芽優勢のしくみについて教えてください。
しろしま さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

頂芽優性については100年近い研究の歴史があります。オーキシンが発見され、合成される場所、移動の仕方などが明らかになったころ、頂芽を切り取った後の切り口にオーキシンを与えると腋芽の成長が抑制されるという実験結果から、ご質問の選択回答(1)が提案されたものです。1930年代のことです。

それから20数年後にサイトカイニンが発見され、サイトカイニンを腋芽に与えると、頂芽を切除しなくても腋芽が成長をはじめることが明らかにされてサイトカイニンの働きも重要なことが判ってきました。
遺伝子組み換え技術でオーキシン量を増やしたり、減らしたり、サイトカイニン量を増やしたり、減らしたりした植物を解析した結果、オーキシンとサイトカイニンの量的バランスが腋芽の成長を決定しているということが判ってきました。
オーキシン量が多いときやサイトカイニン量が少ないときには腋芽成長は抑制される(頂芽優性が保たれる)が、逆にオーキシン量が少ないときやサイトカイニン量が多いときには腋芽成長は促進される(頂芽優性の破れ)ことがはっきりしたのです。
頂芽を切除するとオーキシンの供給が絶たれるので、根から供給されるサイトカイニンの働きが現れて腋芽の成長がはじまる、という話になっていました。

数年ほど前から、サイトカイニン合成遺伝子の発現研究から、頂芽から供給されるオーキシンは腋芽がついている節の部分でサイトカイニン合成を抑制している、そのために腋芽の成長が抑制されている。しかし、オーキシン供給がなくなると節におけるサイトカイニン合成が開始してサイトカイニン量が増加する。その結果、腋芽の成長がはじまる、という仕組みが明らかになったものです((3)の回答)。

オーキシンやサイトカイニンの組織内での移動の仕組み、分布などが詳しく調べらたり、アブシシン酸の関与も推定されていますし、最近は腋芽成長(枝分かれ)を阻害するような物質が根から供給されていることも判ってきましたので、いま考えられている頂芽優性の仕組みも今後修整されていく可能性はあります。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-02-27