一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

作物の保存期間の差

質問者:   自営業   孫の先生
登録番号1914   登録日:2009-02-17
ジャガイモ、サツマイモ、玉ねぎ、かぼちゃ等は保存環境により、長期に保存できますが、どうしてでしょうか。孫に聞かれ応えられませんでした。
孫の先生へ


質問コーナーへようこそ。ご来場を歓迎します。
お孫さんはおいくつか存知ませんが、先生役はなかなか大変そうですね。でもお孫さんがいろいろと身近なことに関心をもって質問されるのはとてもいいことですね。では、小学生(?)のお孫さんにお答えするつもりで回答いたします。


[回答]
 植物も生物ですから、動物と同じように生きているためには栄養が必要です。植物の根は育っている土から水とチッソやリンやカリウムやマグネシュウムなどを含んだ多くの物質を吸収します。また、葉では葉の表面(主に裏面)にある微小なあな(気孔:キコウといいます)から取り入れた空気中の二酸化炭素(CO2)と根から吸収した水を材料に、葉の細胞にある緑色の部分の葉緑素(ヨウリョクソ)の働きで、光のエネルギーを利用して、糖やデンプンを合成します(これを光合成といいます)。そして、これらの糖やデンプンをもとに、根から吸収した他の物質を使って、植物が生きていくために必要な他のさまざまな物質、例えば、タンパク質、脂肪などを合成します。また、糖やデンプンは他の物質の合成のためだけでなく、それを分解して体を維持していくために必要なエネルギーを得ています。
だから、植物を土から引き抜いたり、光が全くない状態に長くおいたりすると、植物は生きていけません。
しかし、植物体は引き抜いたり、一部を切り取ったりしても、たちどころに死んでしまいません。それは、体の中に蓄えられたり、残っていたりする栄養分を分解して必要なエネルギーを作ることができるからです。だから、そのような栄養分が利用できる限り生きているわけです。
ただ、水の供給がなくなるとだめです。また適当に温度が低いと、エネルギーを得る働きが必要最小限におさえられて、栄養分の消耗の割合も少なくなり、生きのびる時間も長くなります。もっとも、あまり低すぎてもだめですが、冷蔵庫の野菜室の温度は一般的な野菜が長く保存できるような温度になっています。
 

ところで、葉野菜の葉というのは、上でものべたように、植物体の成長や維持に必要な物質をたくさん合成しますが、ふつうこれらをたくさん蓄えることはしません。また、葉からは水分がどんどん蒸発します。そのため、長持ちさせることは難しいのです。
ただし、キャベツや白菜のような野菜は、内部の葉が緑色でないことからわかるように、光合成が行われるのではなく、物質を貯蔵するのが主な働きです。だから、ふつうの条件ではキャベツなどはホウレンソウやコマツナなどの葉野菜にくらべて、ながく保存できます。質問にあるジャガイモ(茎)、サツマイモ(根)、はそれぞれ茎と根が栄養分の貯蔵器官となっているもので、多量の貯蔵物質を含んでいます。また、葉のように水分が急にどんどん失われることはありません。ジャガイモやサツマイモの貯蔵物質はデンプンです。ジャガイモもサツマイモも収穫後ある時期になると芽がでてきます。家庭でも経験したことがあるでしょう。芽が出始めると、芽の成長のためにいろいろ新しい物質の合成が必要ですし、また、そのためにもたくさんのエネルギーが使われます。そこで、貯蔵されたデンプン(栄養分)が分解されて使われるのです。タマネギはキャベツと同じように、中心の芯が茎で周囲の一枚一枚のうろこ状のものは葉です。それらはやはり貯蔵器官です。ユリネも同じですね。これらに含まれる栄養分は茎がのびて花ができるときに必要な物質やエネルギーの供給源となります。

さて、カボチャですが、カボチャは果実ですから、ジャガイモやサツマイモとはちょっとちがいます。植物にとって果実は種子をつくる場所です。ですから種子ができてしまえば、果実としての役割は終わるのです。私たちが現在食べている果物や野菜の果実(トマト、キュウリ、カボチャ、ナス、ピーマンなど)はもともと果実としてはひんじゃくなもので、それを人間が栽培し、自分たちに都合のよいように改良してきたものです。(もちろん、農作物は全部そうですが。)カボチャも種子をつくるためだけだったら、あのように肉厚の果実をつくる必要はないでしょう。しかし、人は改良を加えて、栄養分がたくさん貯蔵されている果肉の多い果実をつくりだしました。だから、カボチャにも多量の栄養分が貯蔵されており、また、果実の表面からの水の蒸発も少ないので、もサツマイモやジャガイモのように長い期間保存ができるのです。
 
一般に長期保存できる野菜はだいたい体内に十分は貯蔵物質を持っているものです。そして、葉野菜とちがって簡単に水分が蒸発しにくいものと思っていいでしょう。
 

野菜や果物の長期保存のためには、一般には適当に湿度が保たれ、適当に低温であることがよいでしょう。しかし、植物は体からエチレンというガスを出し、それによって自分自身も老化していきますので、エチレンを取り除くようにすれば、さらに長く保存できるかもしれません。エチレンを吸収できる葉野菜などの保存袋が売られているようです。


JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-02-27
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