一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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幹から咲いてる梅の花

質問者:   公務員   りんご
登録番号1928   登録日:2009-02-26
梅林に梅を見に行きました。花は枝先に咲くものとばかり思っていたら、幹に直接ついてるように見える花がありました。
本を見ると、花や葉や枝になる芽は1番新しい枝の葉腋と茎頂につくと書いてありました。手近な木をみると確かにそのようです。
でも切り株では根元の幹から芽や枝がでますよね。この梅の花はそれと同じことですか?
りんご 様

花が咲くにはまず花芽ができなければいけません。花芽の形成は植物生理学上の大きな研究のテーマで、最近になって遺伝子レベルでの解明が進んいます。花芽のでき方や、開花の条件などについては過去に多くの質問がよせられ、回答が質問コーナーに掲載されていますのでぜひご覧下さい。同コーナーで、「花芽」で検索すると47項目、開花では83項目があります。ここではまずごく簡単に花芽のできかたを説明しておきます。


 植物の成長(主として伸びる方)は茎頂(頂芽)とよばれる部分でおこなわれます。茎頂は茎(主軸や枝)の先端にあり、そこでは。細胞分裂が起きていて細胞が増えていきます。増えた細胞は下方に押しやられるに従っていろいろな働きや形の細胞に変わっていきます(分化)が、頂端に近いところでは葉芽がつくられていきます。葉芽と葉芽の間は茎(節間といいます)となり、このようにして植物の種ごとに特徴ある同じパターンの形態形成がおこなわれて、植物は伸びていきます。ふつうは大きくなった葉の基部の上側と茎との間に新しい芽が形成され(腋芽)、これが頂芽となり、のびて枝になります。植物はこのような形態形成のパターンを繰り返して、全体が大きくなっていきます(栄養成長)。しかし、ある時期になると茎頂では葉芽ができる代わりに花芽ができるようになります。つまり、葉芽から花芽形成への切り替わりが起きるのです(生殖成長への転換)。花と葉は相同器官であるというのはその起源が同じだからです。生殖成長への切り替えが起きるのは、茎頂で葉芽ができるように働いていた遺伝子がストップして、代わりに花芽を作りなさいという遺伝子のスイッチが入るからです。そのためには花成ホルモンが必要ですが、この辺りのことは、先述の質問コーナーの回答をご覧下さい。


 さて、以上でお分かりになったように、花芽はそれ自体別に作られるものではなく、本来葉芽となるものが花芽となってできるものです。熱帯植物は別として私たちの周りで育つ樹木はふつう夏から秋にかけていわゆる越冬芽(休眠芽)をつくります。この状態ではすでに、葉芽か花芽かは決まっています。気候条件が整うと葉芽は伸びて新梢となり、花芽は花となってひらきます。しかし、なかには全く変化しないでそのまま芽として残ったり、時には周囲の組織に埋もれてしまったりして、痕跡的に存在する場合があります。このような痕跡的な芽を「潜伏芽」と呼んでいます。潜伏芽は何かの拍子に成長を再開し、枝となったり、花となったりすることがあります。潜伏芽の成長を再開させる要因はケース•バイ•ケースのようです。カカオやパンノキ(いずれも熱帯植物)は幹から直接花が咲き、果実ができますが、これらは潜伏芽によるものです。


 そこで、回答ですが、ウメの古い幹に花がついたり、切り株の幹から新梢が生じるのも多分潜伏芽によるものでしょう。つまり、まだ若い時期に休眠芽としてつくられた葉芽や花芽が潜伏芽として残ってしまい、年をへて、何かの刺激で目覚めたと考えられます。

JSPPサイエンス・アドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-03-04
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