一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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種子を飛ばした後も長く球果を樹上に残すのはなぜか

質問者:   一般   風子
登録番号1934   登録日:2009-03-06
 お寺の境内にリギダマツがあります。種子を飛ばした後もずいぶん長く球果を枝につけたままですが、なぜ落してしまわないのでしょうか。アカマツにもこのような傾向がみられるようですが、マツにとってそれはどのようなプラスが働くのでしょうか。
風子 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがたいへん難しいご質問で、私の推定を含めてお答えいたします。リギダマツ(ミツバマツとも言いますね)の特徴として3本の針葉が束になっていること、球果の鱗片に刺があることがあげられますが、球果がいつまでも樹上に残っていることもあげられます。一般にマツ類の開いた松かさは1,2年は樹上に残るものですが、このリギダマツはたくさんの球果が数年以上も樹上に残っているようです。

米国ハーバード大学アーノルド樹木園の記載によると30年近くも樹上に残ることもあるとのことです。小種名のrigidaからリギダマツと言われているのでしょう。rigidaとは「頑丈な」とか「堅固な」という意味で、球果が多くは「頑丈に」閉じていることと広く開いた鋭い針葉が「堅い」ためにつけられた名前のようです。しかし、松かさが「頑固に」長期間残ると言う意味も含めてよさそうですね。


さて、問題は「なぜ落してしまわないのでしょうか」とのご質問です。自生地ではリギダマツの球果は成熟しても固く閉じて種子を長期間保護していて高温や火災などにあうと開いて種子を散布する型の果実です。そのため森林火災などの跡に素早く生育をはじめる種類の1つです。しかし、すべての球果が閉じているわけでなくすぐに開くものもあります。固く閉じ続ける球果と開く球果がどうして決まるのかははっきりしません。生育する地域とか環境との相関はなく、1つの個体にも長期間閉じている球果と、すぐに開く球果とが共存するようです。マツ類の雌花(のち球果になる)は短い枝の先に出来ますが、枝と球果とが離れにくい性質を遺伝的に持っていると思われます。

植物の器官が離れる現象は沢山あり、落葉、落花、落果などは代表例ですが、ある時期がくると葉、花、果実がついている柄の組織の一部が特別な分化をして「組織を分離」する構造、つまり、今まで接着していた細胞と細胞が分離するような構造をつくるからです。これを離層とよんでいます。落葉樹と言われている植物でもイチョウやモクレン類のように秋から冬に葉が全部落ちでしまうものや、アベマキのように枯れた葉がいつまでも樹上に残っているものがありますね。離層がきちんとできるか、離層形成が中途半端で止まってしまうか、できないかですが、どれになるかは進化の過程で遺伝子の働きが違ってきたためと考えられます。おそらくリギダマツの球果と枝の間には離層が形成されないか、中途半端になっていて落ちにくいようになっていると考えられます。固く閉じている球果が高温で開いて種子散布をする型であるなら閉じた球果は落ちない方がプラスと言えます。

日本には自生の三葉松はなく、現存のものはすべて輸入植栽されたもので火災、高温にあうこともありませんが球果は自然に開いているのでしょう。しかし落ちにくい性質は残っているためと考えられます。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-03-17