一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物生理学について

質問者:   一般   匿名希望
登録番号1936   登録日:2009-03-09
①年賀状に書いてあったので、疑問に思って投稿しました。

光合成の昼寝現象は12時から13時まで起こるそうですが、
どんな植物でも起こる現象でしょうか?
また、その生理学的意味はなんでしょうか?

②旺文社の全国大学入試正解生物に載っていたので疑問に思いました。

コルメア細胞と重力屈性との分子生物学的関係はどうなっているのですか?
匿名希望 さま

光合成の昼寝現象
 葉の細胞にある葉緑体で進行する光合成によって、太陽光のエネルギーを利用して二酸化炭素を固定し、糖が合成されます。これが葉緑体から葉の細胞に移動し、茎、幹の維管束を通って、新しい葉や、根、実など光合成ができない組織に送られ(転流)、これらの組織の成長の基となります。一般に葉緑体での光合成による糖の合成速度は、糖の転流速度より高いため、日の出と共に始まる光合成によって葉緑体の糖の濃度が徐々に高くなります。そのため葉緑体、葉の細胞の浸透圧が高くなり、葉緑体の光合成機能を抑制するようになります。これから逃れるために葉緑体で糖から(浸透圧を高めることのない)デンプンを合成し、葉緑体が糖の浸透圧によってその機能が失われるのを防いでいます。従ってデンプンを葉緑体にためることのできる植物は、浸透圧の作用からある程度逃れることができます。それでも太陽光を受ける時間が長くなるにつれ、葉緑体にデンプンが一杯に詰まった状態になります。
 光合成の“昼寝”現象は、光合成による二酸化炭素の固定速度が転流速度に比べて高く、糖、デンプンが葉緑体にたまりやすい条件になると起こりやすくなります。従って、日の出から快晴で太陽光照度が高く光合成による二酸化炭素固反応が進行すると、糖、デンプンが葉緑体に集積し、光合成が抑制され、いわゆる光合成の“昼寝”現象が生じやすくなります。しかし、曇った日や雨の日のように太陽光照度が低い場合はあまり“昼寝”は見られません。また、正午がいつも太陽光の照度が最高であるとも限りません。このように“昼寝”は天候によって影響を受けるために、必ず12-13時に生ずるとは限りません。転流は光合成をしていない夜間にも進行できるため、一般に昼間に葉緑体に集積した糖、デンプンは、夜間にショ糖に変換されて朝までに転流を終え、葉緑体には光合成産物は残らなくなります。光合成はこのように葉緑体から光合成産物が転流する速度によっても影響され、この転流が充分に進行できないために光合成が抑えられる現象をシンク・ストレスとよんでいます。光合成による生産性を高めるためには、シンク・ストレスを受けないようにすることも必要です。例えば, 光合成産物を最終的にため込むイネの穂当たりの粒数を多くする、などによって、シンクの容量を大きくすることが試みられています。

重力屈性
 種子が発芽するときなど、根が重力の方向に伸びるのが見られますが、これは一次根の先端にある根冠が重力を感受しているためです(根冠だけを切り取ると重力感受性がなくなります)。根冠は外側に表皮細胞、その内側にデンプン粒(アミロプラスト)を含むコルメラ(columella)細胞があり、根の頂端分裂組織をカバーしています。デンプン粒は比重が高いため、重力によってコルメラ細胞の重力方向側に接触します。デンプン粒がコルメラ細胞のどこに接触しているかによってコルメラ細胞は重力の方向を感受し、根の成長の方向を決めていると考えられています(コルメラ細胞にデンプン粒を含まない変異種は根の重力感受性が低下します。ヒトを含め動物が重力によって平衡感覚を感受する耳石に相当するのが植物ではデンプン粒です)。
もし、根の頂端分裂組織-根冠の先端が重力の方向に向いている場合、デンプン粒はコルメラ細胞の真下にたまり、そこに接触刺激を与えます。このとき、コルメラ細胞のデンプン粒の真下にプロトン濃度(pH), Caイオン濃度が信号として生じます。この信号によって地上部から根の中心柱を経てコルメラ細胞に送られてきた植物ホルモン(インドール酢酸、IAA)が、コルネラ細胞の底から、根の分裂組織に同心円状に同じ濃度でIAAが送られ、根は重力の方向にどの側も同じ速度で細胞分裂を繰り返し、重力方向に根が伸張するようになります。もし、頂端分裂組織-根冠の方向が重力の方向と異なっているときは、コルメラ細胞のデンプン粒はコルメラ細胞の(根が重力方向を向いていた時の真下ではなく)少しずれた所にたまるようになり、その結果、IAAはこのデンプン粒のずれによって根の分裂組織に同じ濃度ではなく重力方向側のIAA濃度が高くなって伸張が抑制されます。一方、重力方向と逆側のIAA濃度が低くなり、伸張が促進され、根の先端が重力方向になるように屈曲します。この様に、コルメラ粒のデンプン粒が感受する重力方向がIAA濃度による細胞分裂の不均一をもたらし、常に根の先端が重力方向になるように根の成長が調節されています(中心柱からIAAが移動できない変異種は重力感受性がなくなります)。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2009-05-07