一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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窒素同化について

質問者:   教員   むーむー
登録番号1941   登録日:2009-03-14
いつも丁寧な返答ありがとうございます。高校の授業で窒素同化を教えるにあたっていくつか疑問があるので質問させてください。

1、窒素同化できる生物では、窒素源とて、アンモニウムイオンと硝酸イオンがある場合、硝酸イオンを選択的に使用するという記述を読んだことがあります。しかし、硝酸イオンを取り込んだ場合にも、結局エネルギーを用いてアンモニウムイオンに還元するので、なんだか釈然としません。この理由はどの様なところにあるのでしょうか。

2、1に関連して、硝酸菌や、亜硝酸菌が行う硝化作用は、炭酸同化を行うためのエネルギーを得るという目的のためである、と教えています。しかし、亜硝酸菌や硝酸菌は窒素同化もするはずなので、窒素源としても、アンモニウムイオンや硝酸イオン(亜硝酸イオンも?)を利用しているはずです。そう考えると、硝酸イオンをエネルギーを使ってアンモニウムイオンに還元し、窒素同化に利用するとすると、硝化作用の意味がなくなってしまうのではないか、と感じているのでうが、いかがでしょうか。また窒素同化の観点から、硝化作用を行う利点などがありましたら教えてください。

3、教科書に載っている窒素同化の経路をみると、グルタミン酸にアンモニウムイオンが渡され、グルタミンとなり、そのグルタミンからアミノ基がケトグルサル酸に渡され、グルタミン酸が生じ、そのグルタミン酸から各種の有機酸にアミノ基が渡されることで、アミノ酸ができると書いてあります。この経路をみると、素人目にはアンモニウムイオンが直接ケトグルタル酸にくっつければよいのでは?という気になってしまいます。そうなっていない理由はなんなのでしょうか。
むーむー 様

本コーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございます。
学会開催の時期と重なったため、回答を差し上げるのが少々遅くなりました。この質問には、山谷知行先生と南沢 究先生のお二人が、それぞれの専門の立場から回答して下さいましたので、ご参考にして下さい(質問1と3については山谷先生、質問2については南沢先生)。また、本コーナーには関連するQ/Aが掲載されておりますので、そちらの方もご参考にして下さい。


(質問1への回答)
多くの植物では、アンモニウムイオンと硝酸イオンが混在した場合は、アンモニウムイオンを優先的に利用します。植物の根はマイナスに帯電しているので、アンモニウムイオンが根に引きつけられやすい傾向にありますが、いずれのイオンも原形質膜上の輸送担体を介して根の中に取り込まれます。アンモニウムイオンは反応性が高く、例えば葉緑体の電子伝達反応を阻害するなどの害作用もあることから、吸収されたイオンのほとんどは根でグルタミンやグルタミン酸に同化され、その後、他の器官に長距離輸送されます。これに対して、硝酸イオンは植物に対する害作用はほとんどなく、吸収された後、液胞に一時的に貯蔵されたり、導管を介して地上部に運ばれ、葉緑体を持つ葉肉細胞などで還元されて、グルタミンやグルタミン酸へと有機化されます。

(質問2への回答)
硝化は、アンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌の働きです。アンモニウムイオンから亜硝酸イオンを経由して硝酸イオンに至る酸化の過程でエネルギーを獲得していることは記述の通りです。
ところで、アンモニア酸化細菌は、アンモニウムイオンを同化するシステムも持っており、全体の僅かな部分のアンモニウムイオンを窒素源として成育に用いていることが、ゲノム情報からも明らかになっております。亜硝酸酸化細菌も、亜硝酸イオンを窒素源として成育できることは実験的に確認されておりますが、この細菌の研究はあまり進んでおらず、どのような亜硝酸同化経路を用いているかはまだ不明です。

(質問3への回答)
質問文に書かれている二つの代謝経路のうち、前者はグルタミンシンテターゼ(GS)/グルタミン酸シンターゼ(GOGAT)経路、後者はグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)経路と呼ばれるものです。
実は、1974年に前者が発見されて以来、窒素同化の主要な経路がどちらなのかについて10年以上も論争がありましたが、現在では、様々な研究から、前者が主経路とされています。ところで、GDHの反応は可逆的で、この酵素はグルタミン酸の合成と分解の両方向の反応を触媒します。一方、GSの反応は不可逆的で、グルタミン合成の反応のみを触媒します。植物は、制御が比較的簡単な不可逆的な反応を主経路に選択したものと思われます。
GDHはミトコンドリアに局在していますが、緑葉のミトコンドリアでは光呼吸と呼ばれる代謝の中でアンモニウムイオンを大量に発生する反応があります。しかし、その緑葉ミトコンドリアでも、GDHはグルタミン酸の合成反応をほとんど触媒していない結果も得られております。GDHの生理機能は、まだわからないのが現状です。

山谷知行(東北大学大学院農学研究科)
南沢 究(東北大学大学院生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2009-03-26
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