一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物は見えているのでしょうか

質問者:   一般   志保
登録番号1945   登録日:2009-03-19
植物が好きで庭弄りをしているのですが
一つのプランターにはおかめづたが伸びており
その横のプランターにはワイヤープランツが置いてあります
よく目をこらしてみると小さな葉っぱのワイヤープランツの一部が
おかめづたの方に伸びてその葉の大きさがおかめづたの若芽の大きさに
そっくりなくらい4倍くらいの葉になっているのです
おかめづたに似せて茎も太くなっていてぐんぐんと
伸びているのに驚きました

目があるわけもないはずなのに
なぜこのように似せて形を変形していくのでしょうか
志保様

お待たせしました。質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。よく観察なさっていますね。植物を育てていると本当にいろいろ不思議なことがおこります。さて、以下のお尋ねの内容は二つの現象にかかわることだと思います。一つは、植物は他の植物をまねることができるか(動物でいう擬態のようなものです)ということと、二つ目に植物はどうやって他を認識できるのかとということです。

二つの疑問に答える前に、まず観察なさった現象が、たまたまの一例なのかどうかということです。植物は一般に、形の上でも機能の上でも変化を示し易いという特性をもっていて、そのような性質を可塑性といいます。特に葉の形態は変化に富んでいます。毛の有無、葉身の形、色合い、サイズ、などなど同じ植物でも成長の時期や、成育環境によって異なることは珍しいことではありま せん。葉の形態は基本的に細胞分裂による細胞数の増加と、個々の細胞のサイズの拡大(縦・横)のバランスによって決まります。さらに細胞の形が丸いか複雑になるかなどは、細胞壁の作られ方で決まります。毛とか刺は主として表皮細胞の変形です。植物にはこれらの葉の形態に関わる遺伝子をもともともっていて、進化の過程のなかで、それぞれの植物が生存戦略として最も適切な形態を選んで、それに必要な遺伝子だけが発現する(働く)ようにを発達させてきたと考えられま> す。だからなにかの拍子に 眠っていた遺伝子が働き始めたりして変異 が生じることは不思議でも何でもありません。あなたが観察されたオカメズタとワイヤープラントとの関係は、別の所でこの2種の植物を同じように育ててやると、やはり全く同じ現象が見られるのでしょうか。また、ワイ ヤープラントの代わりに他の蔓植物がオカメズタと一緒になるとどうでしょうか。オカメズタがワイヤープラントの中に入り込んだらどうなるでしょうか。生育条件(光のあたり具合など)は違いがないのか、などなどいろいろと気になることがあります。それに実際に見てみないと分からないこともありますが、ともかく、今回たまたま観察された「オカメカズラの中にワイヤープラントの一部が入り込むと、葉や茎に形がオカメカズラに似てきた」ということがいつでもどこでも見られると仮定して、考えてみることにします。ただし、推測ですのでご了承ください。
まず、第一の疑問です。植物対植物には動物対動物(昆虫も含む)、植物対昆虫のような擬態は知られておりません。擬態は生物学的には形態の現象ですが、生態学的な意味もあり、学者による見解の相違もあります。しかし、はっきりとした擬態 の場合は、信号の受容者の認知−感知のシステムがあります。したがって、擬態をおこなう生物は積極的に信号を発信して、その受容者をひきつけようとします。擬態が成り立つためには、ある生物とそれを真似る生物とその情報を受け取る生物の3種類の生物の系が必要です。では、ワイヤープラントとオカメカズラの場合はどうでしょう。両者の間では、前者が後者を真似たことになります。真似をするからにはなにかメリットがなければなりません。 そこで、大きくなったワイヤープラントの葉のことを考えてみましょう。 
植物の葉は光合成を行って栄養を身体に供給する源です。植物にとってはいかに効率良く光合成を行なうかは、言ってみれば死活問題です。従って植物は可能な限り葉面が最大の光量を受けられるような形や角度を成長とともに修正します。ワイヤープラントがオカメカズラの蔓の茂みに入り込んだとき、そこで前者の個々の葉ができるだけ葉面全体が広く受光できるような形の葉を作って光合成を効率よく行うためには、周辺のオカメカズラの葉と同じような形になることだと考えることができます。ワイヤープラントがオカメカズラの茂みの中で、本来の固有の葉の形にとどまっているのは、 コストパーフォーマンスが悪いことになります。
さて、そこで第二の疑問です。植物には動物のように視覚や聴覚のような感覚器官はありません。でも、何らかの形で外部の情報(信号)を受け取っています。植物は動くことができませんから、周囲の環境の変化には敏感です。都合の良い情報は積極的に利用し、困った情報にはうまく対処する仕組みをそれぞれの植物が備えています。そういう意味で、植物はとても柔軟な生物だといえましょう。つまり、植物は光(波長、日照時間、光量など)、温度(高温、低温)、重力、接触や振動などの機械的な刺激、バクテリアやカビなどの微生物•昆虫•などの攻撃(生物的な刺激)に対してこれらを認識し、反応することができます。このような植物の基本的な性質については、本学会が監修して化学同人から出版されている「植物は感じていきている」植物まるかじり選書2、滝沢美奈子著をお読みになることをおすすめします。また、学会のホームページ質問コーナーで「日長」、「光受容」、「重力」などのキーワードで検索してみてください。過去の関連する質問への回答の中に参考となる事柄がたくさんあります。では植物対植物の間で情報のやりとりはあるのでしょうか。ここではその点に限ってお話します。
植物対植物で知られている情報伝達の方法は化学物質によるものです。植物は根やその他の体の部分から様々な物質を対外に分泌して、それによって他の植物(同種のものの場合もある)が自分の成長や繁殖を妨げないようにしている場合があります。このような現象をアレロパシー(他感作用)とよんでいます。質問コーナーでアレロパシーを検索してください)。植物は身体、特に葉から様々な気体の物質を放出しています。いい香りがするミント系の植物や臭い臭いのするドクダミなどを想像してください。植物ホルモンのジベレリンは背丈の伸長に必要ですが、ジベレリンを合成できない突然変異体は背丈が低いまま(矮性)です。けれどもジベレリンを与えてやると正常に戻り、背丈は伸びます。ただし一代限りです。ジベレリンは植物体内でカウレンという物質から何段階もの反応を経て合成されますが、このカウレンが合成できないために矮性となっている植物はいくつかあります。このような矮性植物にカウレンを与えれば自分でジベレリンを合成して、正常に伸長できます。シロイヌナズナ(アラビドプシス)という植物の同様の矮性を正常な植物と一緒に狭い容れ物のなかで育てると、矮性体は正常に生長できるのです。これは、正常体がカウレンを葉から放出しているためだと分かりました。ちなみにカウレンは炭素と水素からだけで構成されている 水に溶けない(疎水性/親脂性)物質で、揮発します。量は極めて極めて微量です。
オカメカズラも恐らくなんらかの揮発性物質を放出しているかもしれません。だとすれば、ワイヤープラントはこれらの物質を情報として受け取っているのかもしれません。そして、その情報がワイヤープラントの葉の成長を促しているのかもしれません。もちろん今の段階では推測にすぎませんが。結論として、ただの一例の観察だけでは何ともいえませんが、以上のような可能性はあるでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-03-26
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