一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ブドウ糖は肥料になるの

質問者:   中学生   えりな
登録番号1948   登録日:2009-03-28
父から貰った着生蘭(富貴蘭)とオンシジュームを栽培しています。疑問に思うのですが、成長期に薄い肥料を与えてやると、それを植物が自分でブドウ糖に変えるのであれば、人間の手で初めからごく薄いブドウ糖水溶液を与えた方のが、効果があるのではないかと思うのですが、それとも根や葉からは栄養素は吸収できるけど、栄養そのものである糖は吸収する事はできないのでしょうか?
えりなさん

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ランの栽培をしているのですか。楽しみですね。 
さて、以下の質問ですが、直接的な答えをする前に、植物にとって栄養とはなにか、また、どうやって栄養を補給するかという基本的なことを説明しておきます。
植物も動物もすべての生物は栄養分の供給がないと生きていけません。栄養分は、細胞が新しく作られるための材料として使われるほか、細胞がいろいろな働きをする際に必要なエネルギーを生み出す原料として使われます。動物はこれらの栄養分を体内に直接とりこみますが、植物は光のエネルギーを使って自分で合成します。すなわち、光合成という葉の緑の部分で行われる働きです。光合成は根から吸い上げた水と葉の表面にある気孔という孔から取り入れた二酸化炭素(C2) を原料に光のエネルぎーをつかって、ブドウ糖を合成します。ブドウ糖はデンプン(ブドウ糖がたくさんつながってできたもの)として一時蓄えられます。学校の実験で葉の中のデンプンを調べたことがあるでしょう。植物ではこのブドウ糖から他のいろいろな必要な物質がつくられるのです。根からは水と一緒にチッソ、リン、カリウム、カルシウム、イオウ、マンガン、マグネシュウム、鉄、などなどの元素を含む無機物質が吸収されます。ブドウ糖は変化してチッソやイオウを含むアミノ酸(20種類もあります)ができ、アミノ酸からタンパク質が合成されます。また、チッソとリンが含まれる遺伝子(DNA)も作られます。その他、脂肪や、ビタミン、などもブドウ糖からつくられていきます。もちろん植物でもブドウ糖はエネルギーをうみだす材料としてたくさんつかわれます。
そこで、質問ですが、『肥料を与えると植物はそれを自分でブドウ糖に変える』というのは間違いです。植物は水と光と葉緑素があれば、『自分でブドウ糖を合成できます』。しかし、ブドウ糖だけでは生きていけませんので、いろいろな他の元素が必要になります。では、ブドウ糖を根や葉から植物に与えてやるとどうなるのでしょうか。もちろん与え方にもよりますが、ブドウ等は植物体にとりこまれて、自分が葉で作ったブドウ糖と同じように使われるでしょう。その場合もやはり他の元素が与えられないとだめです。ブドウ糖を例えば 根から与えてやると、土壌や栽培土には無数のバクテリアがいて、これらの格好の栄養となります。したがって、バクテリアの繁殖でかえって植物がだめになることもあるでしょう。葉から与えるとか、いろいろ工夫してバクテリアやカビの影響を受けないようにもできますが、植物体が健全で、光と水と空気(二酸化炭素)があれば十分に自分で必要なブドウ糖を作ることができますので、ことさらブドウ糖を与える意味はありません。しかし、例外はあります。もし植物を光のない条件で、完全に人工的で、また無菌的に育てようとするなら、上に書いた無機物質などの他に、ブドウ糖かショ糖(いわゆるお砂糖)を与えてやる必要があります。
頑張って美しいランの花を咲かせてください。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-04-09