一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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桜の花の散り方

質問者:   公務員   近藤
登録番号1950   登録日:2009-04-06
桜の花は花びらが別々に散りますが、今年花見に行ったら、花ごと落ちているものがたくさんありました。
これはスズメが蜜を吸ったのだと思っていましたが、友人は「今年は開花後冷え込んだから、花ごと落ちる花が増えた」と言います。確かに、スズメの仕業にしては数が多い感じです。
桜は条件によって花ごと落ちるものでしょうか?
ちなみに、桜はソメイヨシノで、落ちた花には花柄が付いてないようでした。(見落としたかもしれませんが、長い花柄には気付かなかったです。)
近藤さま

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。私もスズメの仕業でないサクラの落花が起きているかどうか興味を持ちましたので、住んでいる辺りのサクラを訪ねて歩いてみましたが、花のまま落ちている場合、蕚筒(蕚が融合して筒状になっている部分)の途中でちぎられた、スズメの仕業としか思えないものばかりでした。さて、低温により花のまま落ちることが起きるとした場合、どのような機構が考えられるかを、サクラのコレクションを持つ大阪市大植物園の中に研究室を構え、植物ホルモンの研究を行っておられる飯野盛利先生にお伺いしましたところ、以下のような可能性を示唆して下さいました。サクラでの研究はないと思いますが、イネの冷害の原因が花粉の成熟不良によることが知られておりますので、飯野先生の考えておられる可能性はかなり高いのではないかと思っています。


飯野盛利先生のご回答の要約

お問い合わせの件ですが、ぼくより桜に詳しい当植物園の植松さんに尋ねてみたところ、ご自分では観察していないが、知り合いから近くの桜が落花しているという情報は得ていたようでした。また、植物園の現場の方に尋ねたら、植物園の桜では見られていないが、「桜が落花しているけどどうしてか」という、電話の問い合わせが3件ほどあり、例年ない問い合わせなので、気になっていたとのことです。
落花が観察されているのはソメイヨシノだと思いますが、植物園の桜はほぼ全てがソメイヨシノ以外で、開花期もバラついています。今年はソメイヨシノが2〜3分咲のときに低温になって、その期間が長かったことと関係するのではないかと思うのですが、科学的証拠となると、難しいと思います。

そこで、落花の生理学について、少し考察してみます。落花を積極的に行っている植物は多く、代表的な例として椿を挙げることができます。椿がどうして落花させるのについての知識を持ちあわせていませんので、知識の無いものの考察になるのですが、受粉できなかった(受粉に成功しなかった)花を積極的に切り離している可能性があります。子房はリッチなオーキシン供給源だったと思います。オーキシンは同化産物の移動方向を制御していて、そのためオーキシン生産源(供給源)は同化産物を引き寄せるシンク組織になると考えられます。ですので、受粉しなかった花は、子房が成長せず(したがって、オーキシンが生産されず)、それがシグナルになって花の欠落(離層の形成?)が起こる可能性があります。このような性質が植物の一般的なものだとすると、今回の桜の落花は、低温のため受粉できなかった花が多く生じ、そのために例年以上に落花したという可能性が考えられます。

飯野 盛利(大阪市立大学大学院理学研究科附属植物園)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2009-04-13
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