一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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種子の生命維持システムとしての性能について

質問者:   教員   yam
登録番号1954   登録日:2009-04-14
お世話になります。
小学5年生に発芽について教えるのですが,
その際,種子の素晴らしさに触れたいと思います。
私の中では,種子は実によくできた生命維持装置という
イメージがあります。
種子によって温度変化や乾燥に耐えられるからです。
しかし,どの程度耐えられるのでしょう?

昔,ツタンカーメンのエンドウというエピソードがありましたが,
本当にピラミッドの中にあった種子が何千年も経ってから
発芽したわけでもないようですね。

実際は,種子の状態で何年まで生命を維持することができるのでしょうか?
お教えください。
yam さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
種子の寿命についてのお訊ねで、なかなか難しい問題をたくさん含んでいます。まず、種子の出来方を見ますと、受精卵が発生をはじめ一定の発達段階――双子葉植物であれば子葉、胚軸、幼根が、単子葉植物であれば幼葉とそれを包む幼葉鞘、幼根が形成された段階――に達すると胚は発生を中止し休眠に入ります。このとき植物によって将来の胚成長に必要な栄養分を胚乳に貯めるもの、子葉に貯めるものの違いはありますが、胚乳あるいは子葉の中の植物ホルモン(アブシシン酸が主ですが)が胚発生の停止とその後に続く乾燥に対する耐性を胚に与えると考えられています。種子胚が休眠状態になるわけです。この状態は、短期間であればかなりの高温や極低温に曝されても胚は死なない保護された状態といえます。種子の寿命とは、この保護されている期間、胚が乾燥に耐えて生存しうる期間ということになります。実際にいろいろな植物の種子を、いろいろな条件のもとに貯蔵してどのくらい発芽率が変化するかという実験調査はたくさんなされています。特に作物種子ではほとんどの作物について調査されています。結果は、種子の熟度や乾燥程度、貯蔵条件(特に湿度、温度、酸素など)によって非常に大きく変化しますが、室温乾燥状態では植物種の違いによって種子の寿命の短いもの(数ヶ月〜1年程度)、中程度のもの(2〜3年程度)、かなり長いもの(数年あるいはそれ以上)という違いがあります。岡山大学資源生物学研究所がいろいろな条件下で、各種野草類種子の長期保存調査をしていますが、その結果によりますと30年近くも発芽力を保つ種子がかなり多いとされています。また、手元にある植物生理学の参考書(テイズとザイガー編、L. Taize and E. Zeiger)を見ましたら次のような記載がありました。18世紀後半にロンドンの大英博物館、パリの自然史博物館が世界中から植物種子を収集しましたが、1776年に収集したマメ科エビスグサの仲間の種子を1934年に調べたところ「生きていたViable」(発芽試験と思われます)。また、1879年にビール(W.J. Beal)が21種類の異なった植物種子を蓋なしの瓶に入れミシガン州イーストランシング近郊の砂地に埋めておいた。100年後に調査したら1種(ゴマノハグサ科モウウズイカの仲間)の種子が「生きていた」。これらの信頼できる記載を見ますと、数十年から百年近くも生きた例があることになります。基本的に似たような構造の種子なのにどうしてこんなにも寿命の違いができるのか、がご質問の主旨だと思いますが今の教科書的な知識では「まったく判っていない」というのが実状です。しかし、イネでは、日本型よりもインド型イネの種子寿命が長く、その原因となる遺伝子の探索が行われて、インド型イネには種子寿命を長く保つ遺伝子座があることが分かってきました。低温に保存すると寿命が長くなる、寿命に関係する遺伝子があるという結果は、生きている営み(生化学反応)が寿命に関係していることは推定できます。「種子はどんな仕組みで死んで行くのか」という植物生理学の大切な課題の1つですが、長期間の保存調査を行う研究となりますので近い将来に仕組みが分かることは期待できません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-04-21
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