質問者:
教員
市村
登録番号0196
登録日:2005-01-10
はじめて質問させて頂きます。生物部の学生に専門的な質問をされ、自分なりに調べてみたのですが、適切な回答を見つけられませんでしたので先生方のお知恵を拝借したく質問させて頂きます。みんなのひろば
ポリアミンとカリウムについて
2つの質問があります。
(1)細菌ではヒストンではなくポリアミンがDNAと結合しているが、植物においてポリアミンはどのような働きをしているのか。
(2)カリウムは栄養3大元素の1つであるが、主にどのような働きをしているのか。土の中に多く含まれていた場合と極端に少なかった場合に植物にどのような変化が起きるのか。
(1)について自分で調べたところ、エチレンの生合成に関与しているらしいという事でしたが、本当なのでしょうか。また、それ以外に何かわかっていることがあればお教えください。
(2)については、植物種によってカリウムを必要とする量(植物体中の?)が違うことはわかったのですが、あまりカリウムについて書いてある本が見つからなく、行き詰っています。
また、土の中のカリウムの量を人為的に変えることは、素人にも可能でしょうか?
自分の目で見てみることは、大切であるかと思います。
突然、不躾な質問をさせて頂き申し訳ありません。よろしくお願いいたします。
市村さま
回答が遅くなりました。
ポリアミンは植物にとって必須であることは明らかですが、多価陽イオンであることから様々な高分子などと相互作用しやすく、必ずしも機能が明らかになっていません。すくなくとも、タンパク質の合成(すなわち翻訳)や、正確な転写などにポリアミンは必要で、またDNAの複製や細胞分裂にも重要な働きをしているらしいことが、in vitroでの実験やポリアミン合成阻害剤の実験から示されていて、このことは動物細胞に対するポリアミンの役割とほぼ同じす。細胞内のポリアミンの一部は、DNAやRNAとイオン的に結合して、その構造を安定化するとともに、機能発現に関わっていると考えられています。また、様々な細胞内小器官や細胞膜などの生体膜と結合し、安定化していると考えられています。細胞外にもポリアミンが存在し、このほとんどが細胞壁と結合していると言われていますが、なにをしているのか、今のところはっきりしません。
エチレンとポリアミンの生合成は共通のS-アデノシルメチオニンを基質としており、エチレン合成が進むとポリアミン合成が低下する、またはその逆という関係にあります。また、生理的な作用では、ポリアミンは一般にアブシジン酸やエチレンと逆の作用を持ち、細胞分裂の活性化やマグネシウムイオンの葉からの移動阻止など、「抗老化作用」を示します。また、花芽の分化促進とポリアミン濃度との関係も議論されていて、かなり多面的な働きを持つことがおわかりいただけると思います。
樽井 裕(大阪市立大学)
カリウムは、植物体内で最も大量に存在する無機陽イオンです。細胞内の陽イオンの大半はカリウムで、植物種によって値は変わりますが、100-200mMの濃度に保たれることが知られています。植物にとって、細胞内に高濃度のカリウムが存在する理由として、細胞内浸透圧の維持(従って膨圧の維持にも働く)、酵素機能の維持(触媒機能にカリウムの存在を必要とする酵素がある)、膜電位形成(細胞膜の膜電位の一部は、カリウムの濃度勾配に基づいて形成されます)などが考えられます。また、カリウム溶液では水の活動度が、ナトリウム溶液よりも高いということが知られていますので、その点でも細胞内にカリウムが高濃度に存在する方が、生命活動に都合が良いと考えることもできます。但し、カリウムが高濃度に存在できるのは細胞内だけです。細胞外(細胞壁中)の高濃度カリウムの存在は、植物の生育には害となります。
植物は成長に際して大量のカリウムを必要としますから、農業ではカリウム欠乏はよく知られた現象ですし、三大肥料の一つにカリウムが入っているのも、そういう理由によります。植物がカリウム欠乏に陥ると、葉の先端や葉縁部が黄化してきます。カリウムは窒素とともに、植物体内を移行しやすい元素ですから、カリウム欠乏の症状は古い葉から現れることが知られています。土壌肥料の教科書には、様々な植物のカリウム欠乏症状が出ていることと思います。
植物が大量のカリウムを必要とすることは事実ですが、栄養素としてカリウムを与えなくても、生育の初期にはカリウム欠乏の症状は必ずしも顕著ではありません。これは、土壌にナトリウムが存在すると、植物は欠乏しているカリウムを細胞質に集積し生命活動を維持するとともに、浸透圧維持に必要な液胞内にはナトリウムを代替物として貯めることができることによります。従って、土を用いて植物を生育させる時にカリウム欠乏をすぐに観察することは簡単ではありません。生育の旺盛な植物を、カリウムを除いた培養液を用いた水耕栽培あるいは石英砂栽培などで、ナトリウムの混入を防ぎつつ比較的長期に観察するなら、カリウム欠乏を誘導することが出来ると思います。
三村 徹郎(神戸大学)
回答が遅くなりました。
ポリアミンは植物にとって必須であることは明らかですが、多価陽イオンであることから様々な高分子などと相互作用しやすく、必ずしも機能が明らかになっていません。すくなくとも、タンパク質の合成(すなわち翻訳)や、正確な転写などにポリアミンは必要で、またDNAの複製や細胞分裂にも重要な働きをしているらしいことが、in vitroでの実験やポリアミン合成阻害剤の実験から示されていて、このことは動物細胞に対するポリアミンの役割とほぼ同じす。細胞内のポリアミンの一部は、DNAやRNAとイオン的に結合して、その構造を安定化するとともに、機能発現に関わっていると考えられています。また、様々な細胞内小器官や細胞膜などの生体膜と結合し、安定化していると考えられています。細胞外にもポリアミンが存在し、このほとんどが細胞壁と結合していると言われていますが、なにをしているのか、今のところはっきりしません。
エチレンとポリアミンの生合成は共通のS-アデノシルメチオニンを基質としており、エチレン合成が進むとポリアミン合成が低下する、またはその逆という関係にあります。また、生理的な作用では、ポリアミンは一般にアブシジン酸やエチレンと逆の作用を持ち、細胞分裂の活性化やマグネシウムイオンの葉からの移動阻止など、「抗老化作用」を示します。また、花芽の分化促進とポリアミン濃度との関係も議論されていて、かなり多面的な働きを持つことがおわかりいただけると思います。
樽井 裕(大阪市立大学)
カリウムは、植物体内で最も大量に存在する無機陽イオンです。細胞内の陽イオンの大半はカリウムで、植物種によって値は変わりますが、100-200mMの濃度に保たれることが知られています。植物にとって、細胞内に高濃度のカリウムが存在する理由として、細胞内浸透圧の維持(従って膨圧の維持にも働く)、酵素機能の維持(触媒機能にカリウムの存在を必要とする酵素がある)、膜電位形成(細胞膜の膜電位の一部は、カリウムの濃度勾配に基づいて形成されます)などが考えられます。また、カリウム溶液では水の活動度が、ナトリウム溶液よりも高いということが知られていますので、その点でも細胞内にカリウムが高濃度に存在する方が、生命活動に都合が良いと考えることもできます。但し、カリウムが高濃度に存在できるのは細胞内だけです。細胞外(細胞壁中)の高濃度カリウムの存在は、植物の生育には害となります。
植物は成長に際して大量のカリウムを必要としますから、農業ではカリウム欠乏はよく知られた現象ですし、三大肥料の一つにカリウムが入っているのも、そういう理由によります。植物がカリウム欠乏に陥ると、葉の先端や葉縁部が黄化してきます。カリウムは窒素とともに、植物体内を移行しやすい元素ですから、カリウム欠乏の症状は古い葉から現れることが知られています。土壌肥料の教科書には、様々な植物のカリウム欠乏症状が出ていることと思います。
植物が大量のカリウムを必要とすることは事実ですが、栄養素としてカリウムを与えなくても、生育の初期にはカリウム欠乏の症状は必ずしも顕著ではありません。これは、土壌にナトリウムが存在すると、植物は欠乏しているカリウムを細胞質に集積し生命活動を維持するとともに、浸透圧維持に必要な液胞内にはナトリウムを代替物として貯めることができることによります。従って、土を用いて植物を生育させる時にカリウム欠乏をすぐに観察することは簡単ではありません。生育の旺盛な植物を、カリウムを除いた培養液を用いた水耕栽培あるいは石英砂栽培などで、ナトリウムの混入を防ぎつつ比較的長期に観察するなら、カリウム欠乏を誘導することが出来ると思います。
三村 徹郎(神戸大学)
回答日:2008-08-07