質問者:
公務員
ikubei
登録番号1964
登録日:2009-04-27
例えば、ヒノキとサワラを葉の外観で識別する方法として白い気孔帯がヒノキはY字型で、サワラはX字型として一般に説明されています。みんなのひろば
針葉樹の気孔帯について
こうしたことは見てわかるのですが、気孔帯が葉の他の部分と異なってクッキリと白いのはその部分について何がどう違っているのでしょうか。例えばアスナロでは気孔帯が特にクッキリと規則的な形となっています。樹種は忘れましたが結晶状のワックスが見られるとも聞いたこともあります。この部分に集中して存在している気孔?を保護する役割があるのでしょうか。
図鑑類では特にこのことを説明している例を見かけないため、既に知られていることでしたら是非ともご教示願います。
ikubei 様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。興味あるご質問ですね。
いろいろ調べてみると、葉、特に針葉樹の葉を覆っているワックスや気孔の周辺にあるワックス/キチン役割についての研究は1970年代の後半以降から進められてきたようです。結論からいうと、まだ、研究が盛んに行われている状況で、確定的な見解はありません。一つには気孔のワックスだけを取り除いて調べるというのはそんなに簡単な事ではないからでしょう。しかし、そのような研究もいくつか報告されています。そういう現状を踏まえて、私が分かる範囲で答えします。
まず、気孔の役割を復習してみます。気孔は植物におけるガス交換の場所です。体内からは気孔を通して外気中へ水分を蒸散します。根から主としてミネラル養分と一緒に吸い上げられた水は気孔迄達し、水だけが放出されます。根から吸収される水の一部は体内に留まって、細胞の膨圧維持や、光合成などの化学反応に使われますが、大部分は蒸散されてしまいます。したがって、蒸散が盛んだと、ミネラルの吸収も盛んになります。他方、土壌の水分が不足している条件下で蒸散が盛んだと植物は萎れてしまいます。従って、植物の水分バランスは気孔の開口度によって調節されていることになります。また、気孔からはCO2が流入して光合成に使われ、光合成の結果生じた酸素がやはり放出されます。CO2や酸素の出入りは水蒸気に比べて少量です。しかし、気孔の開口度は光合成の効率に大きく影響します。
以上のような気孔の役割を考えると、気孔を覆うワックスは何かそのような気孔の役割に関係す生理的意義があると考えて良いでしょう。
ワックスで覆われているといことは、気孔腔が塞栓されているという事です。塞栓されているという事でどんなメリットが考えられるかというと、1)先ず蒸散量が抑えられるので乾燥条件下などでの水分の消失の減少がある。2)気孔腔内へ外部からの水の流入を防ぐ。3)葉面全体が水の膜で覆われてしまうのを防ぐ。4)カビや昆虫の侵入を防ぐなどが挙げられます。
さて、気孔の形状は植物によって様々ですが、針葉樹では主に、気孔が表皮から陥没したような形状をしていますので、被子植物で一般に見られる気孔に比べてガス(水蒸気も含めて)交換の効率は低いと思われます。根からの水の通路は木部通道組織にありますが、被子植物と針葉樹などの裸子植物との違いは、前者には導管があり、後者には導管がなくて仮導管が水の通道の主役を担っていることです。これは推測ですが、仮導管による通水は導管よりも効率が低いとされていますので、針葉樹の気孔が陥没し、なおかつワックスで覆われていることは過剰の蒸散がおこらないようにすることで理にかなっているのかもしれません。
ところで、ワックスを取り除いたものと、そうでないものとの比較実験を行った研究によると、使用した植物の種類や、生育する環境条件のちがいもあるのでしょうが、結果は必ずしも一致したものではありません。ある例では、ワックスの塞栓は気孔そのものの蒸散効率にはあまり関係がないが、高湿条件下で葉面に水の膜をできにくくするといい、別の実験ではそれを否定し、ワックス塞栓は全般的にガス交換率を低下させるといっています。しかし、高山寒冷地に生育する針葉樹は、生育土壌が凍結したりすると吸水が制限されますが、強い陽光で乾燥状態でも塞栓のあることがプラスに働いていると示唆しています。
ということで、ご質問の”気孔を保護する”のかということですが、それよりは、気孔の蒸散を含むガス交換の機能の調節、あるいは環境への適応調節の役割を担っていると考えた方がよいでしょう。結論的な事をいうにはまだ、研究が足りないという感じです。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。興味あるご質問ですね。
いろいろ調べてみると、葉、特に針葉樹の葉を覆っているワックスや気孔の周辺にあるワックス/キチン役割についての研究は1970年代の後半以降から進められてきたようです。結論からいうと、まだ、研究が盛んに行われている状況で、確定的な見解はありません。一つには気孔のワックスだけを取り除いて調べるというのはそんなに簡単な事ではないからでしょう。しかし、そのような研究もいくつか報告されています。そういう現状を踏まえて、私が分かる範囲で答えします。
まず、気孔の役割を復習してみます。気孔は植物におけるガス交換の場所です。体内からは気孔を通して外気中へ水分を蒸散します。根から主としてミネラル養分と一緒に吸い上げられた水は気孔迄達し、水だけが放出されます。根から吸収される水の一部は体内に留まって、細胞の膨圧維持や、光合成などの化学反応に使われますが、大部分は蒸散されてしまいます。したがって、蒸散が盛んだと、ミネラルの吸収も盛んになります。他方、土壌の水分が不足している条件下で蒸散が盛んだと植物は萎れてしまいます。従って、植物の水分バランスは気孔の開口度によって調節されていることになります。また、気孔からはCO2が流入して光合成に使われ、光合成の結果生じた酸素がやはり放出されます。CO2や酸素の出入りは水蒸気に比べて少量です。しかし、気孔の開口度は光合成の効率に大きく影響します。
以上のような気孔の役割を考えると、気孔を覆うワックスは何かそのような気孔の役割に関係す生理的意義があると考えて良いでしょう。
ワックスで覆われているといことは、気孔腔が塞栓されているという事です。塞栓されているという事でどんなメリットが考えられるかというと、1)先ず蒸散量が抑えられるので乾燥条件下などでの水分の消失の減少がある。2)気孔腔内へ外部からの水の流入を防ぐ。3)葉面全体が水の膜で覆われてしまうのを防ぐ。4)カビや昆虫の侵入を防ぐなどが挙げられます。
さて、気孔の形状は植物によって様々ですが、針葉樹では主に、気孔が表皮から陥没したような形状をしていますので、被子植物で一般に見られる気孔に比べてガス(水蒸気も含めて)交換の効率は低いと思われます。根からの水の通路は木部通道組織にありますが、被子植物と針葉樹などの裸子植物との違いは、前者には導管があり、後者には導管がなくて仮導管が水の通道の主役を担っていることです。これは推測ですが、仮導管による通水は導管よりも効率が低いとされていますので、針葉樹の気孔が陥没し、なおかつワックスで覆われていることは過剰の蒸散がおこらないようにすることで理にかなっているのかもしれません。
ところで、ワックスを取り除いたものと、そうでないものとの比較実験を行った研究によると、使用した植物の種類や、生育する環境条件のちがいもあるのでしょうが、結果は必ずしも一致したものではありません。ある例では、ワックスの塞栓は気孔そのものの蒸散効率にはあまり関係がないが、高湿条件下で葉面に水の膜をできにくくするといい、別の実験ではそれを否定し、ワックス塞栓は全般的にガス交換率を低下させるといっています。しかし、高山寒冷地に生育する針葉樹は、生育土壌が凍結したりすると吸水が制限されますが、強い陽光で乾燥状態でも塞栓のあることがプラスに働いていると示唆しています。
ということで、ご質問の”気孔を保護する”のかということですが、それよりは、気孔の蒸散を含むガス交換の機能の調節、あるいは環境への適応調節の役割を担っていると考えた方がよいでしょう。結論的な事をいうにはまだ、研究が足りないという感じです。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-05-07
勝見 允行
回答日:2009-05-07