一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クチクラ層の不思議

質問者:   会社員   パシリ哲
登録番号1969   登録日:2009-05-08
以前、質問の回答を頂いた時に、西田治文先生より「植物のたどってきた道」という先生が執筆された本を紹介され大変参考になりました。
その著書の中で植物が上陸を果たすためにクチクラ層を獲得したことが書かれており、クチクラ層は水もガスも通さない、とあります。でも植物は茎や葉のいたるところから養分を吸収できると聞きましたが、必要な養分は吸収し不要なものは通さない仕組みになっているのでしょうか。
教えていただければと思います。
パシリ哲様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。遅くなりましたが、ご質問にお答えいたします。

陸生植物の葉や体の外側は確かに水を通さないクチクラ層で覆われています。しかし、葉から物質が吸収されないかというと、そうではなく、農作物や園芸植物の栽培では、葉面散布により肥料や植物ホルモンなどの薬剤を投与するのは一般的なことです。また、食虫植物では葉の表面で捕らえた昆虫などを、葉から分泌する酵素で消化し、その分解産物を吸収しているということもあります。これらの事を考えると、葉から与える物質は何らかの経路で細胞内へ輸送される事は間違いありません。
そこで、まず葉面の構造について説明する事から始めましょう。
葉面の一番外側にはワックスだけの層があり、これは結晶構造からアモルファス構造まで様々の状態を示します。この下にいわゆるクチクラ層がります。クチクラ層は更に2層に分けて考える事ができます。上部の層は全部脂性の物質からできた完全にクチクラ化された層です。下部の層はクチンを主体とする層で、細胞壁の炭水化物繊維が伸びて入り込んでいる事もあります。クチクラ層の下はいわゆる細胞壁で、セルロースなどの多糖類炭水化物や少量のタンパク質が含まれています。この説明は一般的な構造についてであって、勿論例外はあります。また、表面のワックスークチクラ層は必ずしも一様に葉面を覆っているのではなく、所々ひびや、裂け目、細孔などが存在しているのがふつうです。
さて、葉面から物質がこれらの層を浸透していくにはどういういう経路があるのかを考えてみます。まず、物質には油に溶けやすい親脂性(疎水性)のものと、水に溶けやすい親水性のものとがあります。一般に簡単にイオン化する物質は水にとけやすいと思って下さい。炭素と水素だけから出来ている炭化水素は全く水になじみません。また、分子の一部にイオン化する構造をもっていても、炭素―水素だけで出来ている構造の部分が大きい物質ほど水になじみません。親水性と親脂性の物質が同じ経路で輸送される訳ではありません。前者はワックスークチクラ層にできたひび、割れ目、微小な孔などから水に溶けて入り込み、細胞壁から伸びて組み込まれている繊維構造を通って細胞まで運ばれると考えられます。他方、後者は親脂性であるワックスークチクラ層を直接通過して内部に入ると考えられます。物質を葉面に散布するときには、表面活性剤(石けんのようなもの)を加えた溶液にとかします。表面活性剤は物質がワックスークチクラ層へ浸透するのを助ける働きをします。
葉面からの物質の吸収の機構については、まだ、研究が進展中ですが、現時点では大体以上のような説明が出来ると思います。 
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-05-12
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