一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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榊の枝から根が生まれてきました

質問者:   一般   ああ
登録番号1972   登録日:2009-05-11
花瓶に入れて神棚にお供えした榊の枝の一本から根が出て、水を取り替えるとそれが約2年たった今も枯れずにお供えした花瓶中で成長していました。
2枚しかなかった葉っぱが大小合わせて7枚に増えています。
新芽もありますが、もともとは枝だけのものだったにも関わらず、今では「根が何本にも増えています」どういう成長過程なんでしょうか?
不思議です。
また、今まで使っていた花瓶が小さいので(根が多くなって)、最近になって中型ガラス容器に変えました。そうすると根が見えるのですが、透明容器だと透明ゆえに日差しが、根に当たるようになりますが、このように根の部分は明るい方が根は活発成長するのでしょうか?
それとも根の部分は暗くしている方が成長しやすいのでしょうか?
ああ様

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。ご質問にお答えする前に、植物の体(動物の体も)は細胞で出来ていますが、細胞が持っている遺伝子はどの細胞でも同じだと云うことを述べさせて頂きます。植物の体は茎とか葉とか根とか形も性質も違う部品で出来ていますが、これらの部品は全て一個の受精卵が細胞分裂を行い、分裂により増えた細胞が分裂を繰り返すことによって作られたものです。受精卵はまず持っている遺伝子の正確なコピーを作ります。次に、コピーを作ることによって2倍になった遺伝子を正確に半分に分けて、新しく作る二つ細胞に分配します。このようなことを繰り返して細胞を増やして行くので、出来た細胞はどれも同じ遺伝子を持っているのです。受精卵は体の全てを作るのに必要な遺伝子を持っていますので、分裂によって出来た細胞は、茎の細胞でも葉の細胞でも根の細胞でも、すべての細胞が体全部を作るのに必要な遺伝子を持っているということになります。ようやく質問の答に入ることができます。榊の枝から根が生えて来たそうですが、榊の枝の細胞も根を作るのに必要な遺伝子を全部持っているので、根を作る状況になると根を作るのです。
根を作る状況の一つは切ると云う刺激で、切り口からある決まった距離に有る細胞が分裂を始め、根を作るようになります。もう一つは植物ホルモンです。根を作るのにはオーキシンと呼ばれる植物ホルモンが必要で、これは葉から茎を通っ下方にて送られていますが、茎が切られると、切り口付近に溜まってきて、根を作るのに働きます。
ご覧になっておられる榊の枝からの根もこうして出来たものです。茎を切ると切り口に根が作られる現象は、昔から知られており、同じ性質の植物を増やすための挿し木の技術として利用されています。オーキシンは植物が作るホルモンですが、同じ働きをする薬剤は合成することができますので、挿し木を行う時にそのような合成薬剤が利用されています。昔の人は挿し木を行う時、切り口を人尿に付けてから行ったそうですが、人尿にはオーキシンが含まれていますので、今から考えると、昔の人は理由は分からないまま、オーキシンを利用していたことになります。根の生長には光は阻害的です。根には光を当てない方が良いと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2009-05-14