一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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1枚の子葉の役割

質問者:   小学生   すずき
登録番号1976   登録日:2009-05-23
先生、こんにちは。
いつも、あさがおのことを教えてくださって、ありがとうございます。
二年生になりました。今年も、家でアサガオなどの研究をしています。
調べてもわからないことがあるので、教えてください。
よろしくおねがいします。

おじいちゃんの畑で、トウモロコシの種をうえたので、
うちでも、種をまいて、芽がでるのを楽しみにしていました。
芽はでたけど、双葉はでませんでした。
僕はびっくりして、本で調べたら、アサガオの双葉のように、2枚ではなくて、
1枚だけの葉がでる仲間があるとわかりました。
だから、双葉ではなくて、子葉と言うことがわかりました。
子葉が2枚のものは、葉っぱに栄養がつまった種のようなものとわかりました。
本葉をだすまでの大切な葉っぱです。
でも、1枚のものは、栄養のところが土の中に残っているみたいです。

子葉が2枚のものの役目はわかりましたが、子葉が1枚のものの役目がわかりません。
トウモロコシの芽をみても、下の方に、小さなぴらぴらしたうすい皮のような子葉がついているだけです。
栄養がつまっていないみたいだし、栄養をつくっているようにもみえません。
すぐ本葉が出てきたし、不思議です。
なんのために、あるのですか?
1枚の子葉のお仕事を教えてください。
よろしくお願いします。

※ 以前、アサガオの葉序などのご指導をいただき、ありがとうございました。
先生方に、お返事をいただいてから、いっそう生活科(理科)が大好きになり、
自分でいろいろ観察し調べております。
疑問を手紙にしておりましたので、代わりに入力させていただきました。
ご指導、よろしくお願いします。    (すずき母)
すずき くん:

これまでのご質問にお答えした事柄がお役に立っていて、すずきくんが植物の観察にとても大きな興味を持っていただけることを知り、私たちも嬉しくて元気が出てきました。植物という、自然の中の一部だけでもまだまだ分からないことがたくさんありますね。すずきくんのような少年が大きくなって植物の研究者になったらすてきだなと思います。さて、今回のご質問、お答えするのは簡単なようで、よくよく考えてみるとなかなか難しいなと思うようになりました。少しばかり、長くなるかも知れませんが、整理して説明したいと思いますが、よく分からないところがあったらまた質問してください。


植物の中で「種子ができる植物」(種子植物)には種子の基になる胚珠が、変形した葉の上にむき出しでできるものと、変形した葉で包まれるものとがあり、前者を裸子植物、後者を被子植物とよんでいます。どちらも種子をつくり、種子の中には次世代の赤ちゃん植物がすでにできあがっています。次世代の赤ちゃんには簡単な葉、茎、根ができています。この赤ちゃんの葉を子葉(種子葉)といいます。ただし、子葉の間にある茎の先端には本葉が2,3枚は出来始めています。被子植物の種子を調べてみると子葉が2枚ある赤ちゃんと1枚しかない赤ちゃんをもつものがあることが分かり、2枚あるものを双子葉植物、1枚しかないものを単子葉植物として整理しています。ちなみに、裸子植物(イチョウ、ヒノキ、スギ類、マツ類など)では子葉が数枚あるものもあります(たとえばマツの仲間)。

すずきくんが研究しているアサガオやキャベツ、ハクサイ、エンドウ、ダイズなどには子葉が2枚あり双子葉植物です。イネ、トウモロコシ、ネギ、ユリ、サトイモなどは子葉が1枚しかない単子葉植物です。すずきくんが観察したトウモロコシは単子葉植物なので双葉がでなかったのです。

そこで子葉の働きを考えるため、双子葉植物の子葉をまず考えてみます。双子葉植物の種子では、貯蔵物質を子葉に貯めるものと、胚乳に貯めるもの(たとえばヒマ(トウゴマ)やカキ)とがありますが、多く(ほとんど)は子葉に貯める型です。エンドウ、ダイズ、ソラマメ、ピーナッツなど豆類の種子は簡単に2つに分かれますね。これは栄養分をたっぷり貯め込んだ子葉です。発芽するとき、エンドウ、ソラマメの子葉は地中に残り、目に見えませんが、地上にでる茎、葉(次世代の植物本体)に栄養を供給し続けます。ダイズ、インゲンでは子葉は短い茎の上に乗って地上にでてきますが、葉のように展開したり緑色になったりすることはありません。子葉の間からでてくる茎葉部などに栄養を供給し続け、栄養分がなくなればしおれて落ちてしまいます。これらは、次世代の植物本体が自身で光合成を行って自立成長できるまでの栄養分を確保していることになります。ところが、すずきくんが興味を持っているアサガオやキウリ、カボチャなどのウリ類では、子葉に貯められる栄養分は少なくそれだけで次世代本体を自立するまで育てるには十分ではありません。そのため、子葉が展開して緑色になり光合成を行って栄養の供給を続けます。しばらくは立派な葉の働きをしますが、やがて使命を終えると枯れおちます。

まとめると、子葉は自身に十分な栄養分を貯蔵するか、足りなければ光合成するようになって必要な量の栄養分を次世代の本体に与える働きをしています。


ところが単子葉植物の子葉は肉眼ではっきり見える部分とそうでない部分があり、働きも少しばかり異なります。お訊ねのトウモロコシなどイネ科の子葉は、大きくかたちを変えて2つの部分になっています。一部分は本葉を包む鞘状の幼葉鞘(子葉鞘)となり、その他の部分は本葉、茎、根を覆うように被さる胚盤とよばれる大きな部分で、胚盤の反対側は栄養分を貯めている胚乳に接しています。発芽するとき本葉と茎は幼葉鞘に包まれたまま成長して地上に顔を出します。幼葉鞘は2,3センチメートルしか成長しないで、本葉は幼葉鞘の先端を破って外にでてきます。「トウモロコシの芽をみても、下の方に、小さなぴらぴらしたうすい皮のような」ものが幼葉鞘の残骸です。幼葉鞘は、大切な本葉が土の中で成長するとき土砂などで傷つかないように保護する働きをしているのです。イネのように水中で発芽するものでは植物本体が溺れないように保護していると考えられています。子葉のもう一方の部分(胚盤)は、発芽の初期には胚乳に貯まっているデンプンを分解する酵素を出してデンプンを糖に分解し、分解した糖を胚盤が吸収して成長する次世代植物本体に供給します。発芽が進むと、デンプンやタンパク質を分解する酵素群は胚乳を囲む別の細胞で作られ活発にデンプンをはじめ貯蔵物質を分解しますので胚盤は糖やアミノ酸を吸収して植物本体に供給する働きに専念するようになります。単子葉では、1枚しかない子葉は幼葉鞘と胚盤という2つの部分に変形し、幼葉鞘は保護作用、胚盤は栄養吸収作用という違った2つの働きをもっていることになります。ネギ類の子葉は地上にでて大きく、緑色になりますが、発芽の初期に種子の貯蔵物質を分解、吸収する働きをする点では同じです。

JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-05-27
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