一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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イネ科植物の幼葉鞘は茎ですか?芽ですか?

質問者:   教員   Nazejah
登録番号1988   登録日:2009-06-07
 初めて質問させていただきます。高校で生物の教師をしています。植物ホルモンの単元では,イネ科植物の幼葉鞘が頻出します。この先端部ではオーキシンが作られることが多くの実験とともに示されています。また,オーキシンの器官による感受性の違いを示すグラフが必ず教科書にあります。根・芽・茎で感受性が異なり,濃度により成長促進にも抑制にもはたらくというものです。
 そこで,素朴な疑問なのですが,幼葉鞘の感受性は,このグラフのうち,茎と同じなのでしょうか,芽と同じなのでしょうか。幼葉鞘そのものについて調べますと,葉や茎を包んでいる保護器官と思えますが,そうすると茎と同じと判断すべきなのでしょうか。導入に使われるくらいのイネ科植物の幼葉鞘のオーキシン感受性について,はっきりと書いてあるかどうか調べてみたのですが,このことについて書かれたものを探すことができませんでした。私の勉強不足だと思うのですが,お答えいただければ幸いです。
Nazejah さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物成長生理学の基本的な事柄に関するご質問です。
1937年にK. V. Thimannが発表した論文に掲載されたオーキシン感受性に対する概念図に関するものですが、この図における茎、根はともかくも「芽bud」については実験系を理解する必要があります。まず単刀直入にお答えしますと、幼葉鞘は器官としては子葉の一部ですから「葉の一部」になります。しかし、伸長成長についてオーキシンに対する感受性をみると、茎と同じ程度のオーキシン濃度範囲で伸長反応を示すことがそれまでの多くの実験で(その後の研究でも)分かっていますので、幼葉鞘の反応性はこの図が示す「茎」の反応性と同じカテゴリーに入ります。この図を見ると、茎も根も「芽」もある濃度範囲のオーキシンによって伸長が促進され、ある濃度を超えると伸長促進の効果がなくなり、さらに対照区よりも伸長しない(阻害している)ことを示しています。つまり、どの器官も定性的に同じ反応をしていて、違いは「反応を示すオーキシンの濃度範囲だけ」ということを主張しているものです。
この論文は、幼葉鞘や茎の伸長成長を促進するオーキシンが、腋芽や根の伸長成長に対しては抑制するのはどうしてか、との課題を取り上げたものです。「芽」についての実験は頂芽優勢の説明で、主にエンドウ芽生えの頂芽を切除したときに伸長する腋芽の長さの変化を、オーキシンを与えたとき、与えないときとで比較したもので、頂芽から送られるオーキシンが腋芽の伸長を「阻害」していることを再確認したものです。この結果は、根でも見られるオーキシンによる伸長阻害と類似のものである。根を調べると幼葉鞘や茎の伸長を促進する濃度では、根の伸長は阻害されるが極低濃度を茎の切り口に与えるとその下の根の伸長をわずかながらも促進する、と論じています。「芽」の「伸長を促進する」オーキシンの濃度があるとする結果は提出していません。「植物の成長にオーキシンは不可欠だから、芽の伸長促進作用もあるはずだ」との推測から図を作成しています。腋芽についてのこの推定は的確ではありません。頂芽優勢については登録番号1913をご参照ください。この図は、茎の示す負の重力屈性、根が示す正の重力屈性を理解するのにも便利なのでよく引用はされます。
次に、なぜオーキシンの成長実験に幼葉鞘が使用されるのか、には長いお話がありますが、ダーウィンが光屈性において移動性の原因物質があることを推定したのはイネ科のカナリアソウ(クサヨシやチガヤの仲間)の幼葉鞘だったこと、その研究をオーキシンの発見につなげたのはデンマークのボイセン-イェンセンで彼がイネ科オートムギの幼葉鞘を使ったことなどが大きな要素になっています。結果的にはそろった植物材料が容易に入手でき、実験処理がしやすく、細胞分裂をしない、維管束が2本しかない、そしてオーキシンにたいへん感度が高いため、最適の材料だったと考えられます。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-06-10
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