一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ブナのアレロパシーについて

質問者:   大学生   佐々木
登録番号1989   登録日:2009-06-08
植物が持つアレロパシー作用について少し学んだのですが、ブナの木が生長するに従って毒素を出して、他のブナの個体を枯死させるという作用はアレロパシー作用なんでしょうか。そもそも、この性質をブナは持っているのでしょうか。
佐々木 さま

ブナの樹木から放出される何かの成分が、ブナ自身または他の植物に対し成長を抑える、いわゆるアレロパシー作用(他感作用)をもっているかどうかについてのご質問ですが、植物のアレロパシーについて広く研究されておられる、(独立行政法人)農業環境技術研究所の藤井 義晴 博士にお尋ねいたしましたところ、次のような詳しい解説とデーターをいただきましたので、ご覧下さい。

一方、ブナ林の生態的な調査によりますと(萩原信介:雑誌NEWTON, Special issue植物の世界、No 4 ブナの生活史、pp.22 - 57 (1989)), ブナの種子(実)は5年に1度位の豊作年があり、この豊作年の秋になるとブナの実はたくさん地上に落ちます。特に日本海側のブナ林では、春になるとこれら種子が発芽しブナの木の周りはブナ畠のようになるようです。これから見ますと、ブナの樹木に、ブナ種子の発芽や生育を抑制するアレロパシー成分は含まれていないように思われます。しかし、このように発芽した芽生えも、ブナ林では地上部に生えているササなどに覆われるため、また、樹冠に新芽ができ葉が茂るにつれて太陽光が遮られるために地上部は暗くなります。その結果、ブナ種子はその養分を使いつくすと光合成ができないため芽生えはそれ以上成長できずに、大部分は枯れてしまいます。しかし、ブナの大きな木が倒れ、空間ができたところ(ギャップ)では、太陽光が地上まで届くためブナの芽生えは成長できます。

 
植物のアレロパシーはいろいろな方法でされていますが、ブナ科(約600種)の内、13種の植物の葉の水抽出物がレタスの根の伸長をどれだけ阻害するかを調べた結果は次の通りです。アベマキ(85), クリ(56), コナラ(50)、アカカシワ(40)、クヌギ(37)、トチュウ(34)、ウバメガシ(32),アラカシ(28),イヌブナ(24)、アカガシ(19)、スダジイ(-4)、ブナ(-7)、マテバシイ(-9)。ここでカッコ内の数字は、レタスの根の伸長がブナ科のそれぞれの植物の水抽出物によってどれだけ阻害されているかを、%で示した値です。これからみるとアベマキにはやや強い阻害作用がありますが、ブナ、イヌブナはほとんどレタスの根の伸張を抑制する作用をもっていません。しかし、ブナ自身の芽生えの成長に対するブナの水抽出物の効果はまだ調べられていません。
  
上のアレロパシー活性の測定は、サンドイッチ法という方法で行いました。アレロパシーは、農業においては、雑草のアレロパシーが作物の生産を抑制する悪い面、アスパラガスやモモなどの永年生作物の連作障害や植え替えのときの生育阻害、逆に被覆作物のアレロパシーによる雑草抑制などの良い面が知られています。また、植物生態上の意義としては、セイタカアワダチソウやニセアカシアなどの外来植物が強いアレロパシーをもっていて、在来種や他の植物の生育を抑制してはびこる原因になることが知られており、これらは「外来植物の新兵器仮説」とよばれています。

藤井 義晴((独立行政法人)農業環境技術研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2009-08-11
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