質問者:
一般
Malus
登録番号1996
登録日:2009-06-15
お世話になります。先日、公務員試験問題の農学系問題を解いており、短日植物の地理的分布について疑問が湧いてきました。そこで、農学や植物生理学の本でその辺りを調べたのですが、一番知りたい部分の記述が無く質問させていただきたいと思います。みんなのひろば
短日植物の地理的分布について
その問題というのは択一式で「植物の光周性に関する記述として正しいのはどれか」という問いに対し答えは「短日植物では、高緯度に分布するものほど、花芽形成に必要な限界日長が長くなるのが一般的である」というものでした。
しかし、ここで私として気になるのは答えの「高緯度地方に分布するものほど」「限界日長が長くなる」という記述です。短日植物が夜の長さ(昼の短さ)によって花芽形成を決定しているとすると、高緯度へいくほど限外日長を短くする方が生存には有利なのでは無いかという気がしてなりません。実際に高緯度地方へ行くほど限界日長は長くなっているものなのでしょうか。
ご回答賜れれば幸いです
Malusさん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「限界日長」という用語は、実際の状況を的確に表現していないので紛らわしいものですね。
光周性、花成の生理学がご専門の新潟大学 竹能清俊先生から次のような解説をいただきました。
短日植物の限外日長についてのご質問ですが、光周的花成では明期の時間ではなく暗期の時間に意味がありますから、限界日長よりも限界暗期という考え方をするべきですので、以下、限界暗期の語を使って話を進めます。勿論、1日は24時間で一定ですから、限界暗期=24時間-限界日長であり、実質的に同じ話をすることになります。
さて、極端な例を考えてみますと、夏の北極圏では白夜が続き、夜が無いので、花成に一定時間の暗期を必要とする短日植物は花を咲かせることが出来ません。北極圏より緯度がやや下がって、短時間ながら夜がある地域では、短日植物であっても限界暗期が短いものならば花を咲かせることが出来ます。さらに緯度が下がって、夜の時間が長くなれば、限界暗期の長い短日植物でも花を咲かせることが出来ます。こう考えてみると、短日植物では、高緯度に分布するものほど限界暗期が短い方が花を咲かせやすく、次世代を残して種として生き残れるという意味では、生存に有利であると考えることが出来ます。
実際に、短日植物では、高緯度に分布するものほど限界暗期が短くなります。京都大学・瀧本先生のグループは日本各地から短日植物であるアオウキクサを採集し、それぞれの限界暗期を調べました。その結果、宮崎県西都で採集したアオウキクサの限界暗期は12時間15分でしたが、北へ行くほど限界暗期はだんだん短くなり、北海道深川のものは8時間00分であることが分かりました。このように、同じ種でも、高緯度に分布するものほど限界暗期は短くなります。高緯度地方ほど夏の気温は低い上に、夏から秋にかけての気温の低下が早いので、生長に都合の悪い低温の季節が来る前に早々と花を咲かせて子孫を残す方が都合がよいという解釈が可能です。そのためには限界暗期は短い方が有利です。逆に、低緯度地方では気温が高いため生長を長く続けることが出来るので、花を咲かせる時期を遅くすれば個体が大きくなっただけ花の数、種子の数を増やせると考えることができます。そのためには限界暗期は長い方が有利です。
今では花成は植物生理学の研究対象とされ、生存にとっての有利不利や生産量の多寡との関係を議論するようなことはあまりありませんが、ガーナーとアラードによる光周性の発見に始まる初期の花成研究では、地域に適した品種を選定するために限界暗期(当時は限界日長)を調べるというような農学的、生態学的視点からの研究が主流だったようです。
竹能清俊(新潟大学理学部)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「限界日長」という用語は、実際の状況を的確に表現していないので紛らわしいものですね。
光周性、花成の生理学がご専門の新潟大学 竹能清俊先生から次のような解説をいただきました。
短日植物の限外日長についてのご質問ですが、光周的花成では明期の時間ではなく暗期の時間に意味がありますから、限界日長よりも限界暗期という考え方をするべきですので、以下、限界暗期の語を使って話を進めます。勿論、1日は24時間で一定ですから、限界暗期=24時間-限界日長であり、実質的に同じ話をすることになります。
さて、極端な例を考えてみますと、夏の北極圏では白夜が続き、夜が無いので、花成に一定時間の暗期を必要とする短日植物は花を咲かせることが出来ません。北極圏より緯度がやや下がって、短時間ながら夜がある地域では、短日植物であっても限界暗期が短いものならば花を咲かせることが出来ます。さらに緯度が下がって、夜の時間が長くなれば、限界暗期の長い短日植物でも花を咲かせることが出来ます。こう考えてみると、短日植物では、高緯度に分布するものほど限界暗期が短い方が花を咲かせやすく、次世代を残して種として生き残れるという意味では、生存に有利であると考えることが出来ます。
実際に、短日植物では、高緯度に分布するものほど限界暗期が短くなります。京都大学・瀧本先生のグループは日本各地から短日植物であるアオウキクサを採集し、それぞれの限界暗期を調べました。その結果、宮崎県西都で採集したアオウキクサの限界暗期は12時間15分でしたが、北へ行くほど限界暗期はだんだん短くなり、北海道深川のものは8時間00分であることが分かりました。このように、同じ種でも、高緯度に分布するものほど限界暗期は短くなります。高緯度地方ほど夏の気温は低い上に、夏から秋にかけての気温の低下が早いので、生長に都合の悪い低温の季節が来る前に早々と花を咲かせて子孫を残す方が都合がよいという解釈が可能です。そのためには限界暗期は短い方が有利です。逆に、低緯度地方では気温が高いため生長を長く続けることが出来るので、花を咲かせる時期を遅くすれば個体が大きくなっただけ花の数、種子の数を増やせると考えることができます。そのためには限界暗期は長い方が有利です。
今では花成は植物生理学の研究対象とされ、生存にとっての有利不利や生産量の多寡との関係を議論するようなことはあまりありませんが、ガーナーとアラードによる光周性の発見に始まる初期の花成研究では、地域に適した品種を選定するために限界暗期(当時は限界日長)を調べるというような農学的、生態学的視点からの研究が主流だったようです。
竹能清俊(新潟大学理学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-06-23
今関 英雅
回答日:2009-06-23