一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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スクロース溶液の代わりに尿素溶液を用いた場合の原形質分離

質問者:   高校生   アオミドロ
登録番号1999   登録日:2009-06-21
今高校二年生で、生物の授業を受けています。
さて、先日の授業における実験で「細胞膜の性質を理解する」という題目で、赤タマネギを使い、各濃度におけるスクロース溶液中での原形質分離を観察しました。そのあと、ある資料を読み、そこに『スクロース溶液の代わりに尿素溶液を用いた場合、原形質分離は起こるが、時間が経つと緊張状態に戻る。』と書いてあったのですが、これはどういう理由から起こるものなのでしょうか?
アオミドロさん

質問コーナーへようこそ。ご来場歓迎します。さて、質問ですが、原形質分離はなぜ起きるかを考えて下さい。教科書でその辺の所はすでに習っておられると思いますが、ここで簡単に復習しておきましょう。細胞膜は水を容易に透過させますが、水に溶けている物質はすべて透過できるとは限りません。ある物質は比較的容易に透過しますが、ほとんど透過しない物質もあります(膜の半透性)。また、透過できるが時間のかかる物質もあります。物質の細胞膜の透過にはいくつかの道筋があって、物理的な拡散方式で透過する場合、酵素のようなものに助けてもらう場合、ATPのエネルギーを使ってポンプのように能動的に細胞が取り込む場合などです。これらの方式は物質によって、また細胞の違いによって異なります。細胞が水を吸う力は細胞内(液胞)の浸透圧によりますが、浸透圧は細胞内にとけている浸透物質(糖、アミノ酸、有機酸、各種のイオンなどなど)の濃度に依存します。これらの濃度(全体の)が細胞膜の外の溶液の濃度よりも高いと、細胞膜をはさんで内外の濃度の差がなくなるように水の細胞内への移動がおきます。溶けている物質が膜を通りやすいものであれば、その物質の外への移動もおきます。しかし、短時間で簡単に膜を透過できない場合は、細胞は見かけ上一方的に吸水することになります。しかし、植物の細胞には細胞壁がありますので、吸水によってどんどん細胞の容積が増大することはなく、細胞壁の押さえ込む力と入り込む水の力が拮抗して、見かけ上吸水は止まるので細胞内外の物質の濃度が同じになることはありません。今度は逆に細胞を細胞内の浸透物質の濃度より高い濃度の溶液に入れてやると、逆の事がおきます。すなわち、細胞内外の濃度が等しくなるように、こんどは細胞外へ水が移動する事になります。外の濃度がとても高いと、細胞内の水はどんどん流失して、最後には細胞膜(原形質膜か)が細胞壁らはがれて原形質分離がおきます。外の濃度をいろいろ変えて、原形質分離がおきるぎりぎりの(限界原形質分離)濃度を測定すれば、それがその細胞の細胞内の浸透物質の濃度に等しいとみなされ、浸透圧を計算して推定する事ができます。このような実験をおこなうには、細胞膜を透過しにくく、代謝されにくい物質の溶液を使う方がよいので、ふつうはマニトールとかソルビトールなどの糖を用います。授業の実験ではスクロースの溶液を使ったとのことですが、スクロースは細胞に取り込まれやすく、また取り込まれると細胞内でどんどん代謝されますので、細胞内でのスクロースの濃度は変わります。気をつけないといけません。しかし、短時間で観察したり、原形質分離を見るだけならよいでしょう。 
さて、そこで肝心の質問ですが、尿素はどういう物質かというと、他の物質に比べて取り込まれやすい、つまり細胞膜を透過しやすい物質です。しかし、水のようにすぐさま早い速度で細胞内へ流入する分けではありませんので、尿素溶液中に細胞をおくと、直後には原形質分離がみられます。(勿論尿素の濃度にもよります。あまり高いとタンパク質の脱水などがおこります。)しかし、しばらくすると尿素分子は細胞内へ入り込み、その結果細胞内の浸透濃度が増加して、逆に吸水が始まり、原形質分離はなくなって、元の状態への復帰がみられます。原形質分離の実験をする場合、分離の速度、濃度などは用いる細胞の細胞膜透過の性質にも大きく依存します。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-07-01
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