一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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オシロイバナの色素について

質問者:   中学生   Keitorin
登録番号2060   登録日:2009-08-25
夏休みの自由研究で、オシロイバナを選びました。いろいろ調べて、まずオシロイバナの色素はベタレインであることがわかりました。実験で、色素の水溶液に酸性のものやアルカリ性の物をいれ、ほとんど見た目は同じでも違う色素の植物を選んで、その反応の違いを調べてみようと思いました。ところが、資料にある色の変化と実際のものが違い、新たな疑問が出来ました。
オシロイバナに含まれている色素は、ベタレインだけでしょうか?
あるいは他の色素も微量に含まれているのでしょうか?
ベタシアニンはアルカリで黄色くなると資料にありますが、赤紫の花の汁はやや青黒くなりました。不純物のせいでしょうか?
また、斑入りの花もよくみるのですが、白地に赤紫、黄色に赤紫の斑入りはみますが、白地に黄色はみたことがありません。(あるそうですが)また、割合的に赤紫の中にわずかに白い点や黄色い点が入るような斑入りはみられないような気がします。それはなぜでしょうか?
白い花の場合、色素がないかフラボン類のいずれかと資料ではみましたが、オシロイバナの場合どちらでしょうか?
それを家庭でも簡単にしらべる方法はあるでしょうか?
Keitorin さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「オシロイバナの色素について」のご質問にたいして、小関良宏先生から次のような詳しい解説をいただきました。オシロイバナの花色の遺伝は昔から研究の対象となっていて高校の教科書にも簡単に触れられていると思いますが、実はまだ分からないことがいくつかあるようです。トランスポソンの話がでていますが、染色体中を気ままに動き回る遺伝子が何種類かあって、別の遺伝子に飛び込んでその働きを止めたり、また飛び出したりする不思議な遺伝子のことです。ちょっと難しいかも知れませんがよく読んで理解してください。


【小関先生の解説】
オシロイバナ(英語で four o'clock と言います。夕方から咲くのでこの名前があります。夜に活動する蛾が花粉を媒介しています)の色の研究は、メンデルが遺伝学的な解析を行った材料の1つです。ご存知のようにオシロイバナには白花、黄色花、赤花があります。白花と黄色花を交配したとき、黄色花だけになるはずのところが、ある系統の白花と黄色花を交配すると赤花が出ることから、遺伝様式が単純ではないことに気がついて、それ以上の研究を続けなかったのだろうと私は推測しています。その後の日本人の遺伝学的研究によって、花色にかかわる遺伝子には C (color) と R (red) の2つの遺伝子が働いていることがわかりました。C遺伝子とR遺伝子 が発現する(働く)とベタレインが合成されて赤色となります。正確に言いますとベタレインはベタシアニンという赤色の化合物とベタキサンチンという黄色の化合物の総称で、黄色花はベタキサンチンによるものです。さてベタレインですが、これはオシロイバナだけでなく、赤ビート(これから最初に見つかったので、ビートレイン→ベタレインの名前となっています)やホウレンソウ、マツバボタンなどのナデシコ科とザクロソウ科を除くアカザ科、サボテン科やヤマゴボウ科の植物種のみが合成します。ベタレインを合成する植物種はアントシアニンを合成せず、逆にアントシアニンを合成する植物種はベタレインを合成しないという背反性があり、なぜこのようになっているのかは植物学の古くからの大きなナゾで、未だに解けていません。もう1つ不思議なのが、ベタシアニンを合成するのは植物だけでなく、キノコの一 種も合成して蓄積しています。有名なベニテングタケのあの赤い色もベタシアニンです。
さて御質問の本題に入りますが、植物から抽出して精製したベタレインはアルカリ性にすると黄色になります。それではなぜオシロイバナの赤紫の花の汁にアルカリを入れたら青黒くなったのか? 可能性は2つあります。1つはアルカリが弱かったために黄色にならなかった(キッチンハイターの原液のような強いアルカリで処理してみてください。手袋してくださいね)、もう1つはオシロイバナに含まれるファイトメラニン(褐色の物質)によって、黄色がかくされてしまって青黒く見えたと考えられます。
次に斑入りの花ですが、白地に黄色、黄色地に赤色、白地に赤色のすべてがあります(メンデルもこの斑入りの観察をしていたというのが記録に残っています)。1つの花で白色、黄色、赤色の 3つの斑入りになっている花もあります。この斑ですが、「動く遺伝子」といわれるトランスポゾンが活躍しているためです。ベタレイン合成系は、未だにその全部の酵素と遺伝子がわかっていませんので、現在では推定に過ぎませんが、次のように考えられています。C遺伝子やR遺伝子に「動く遺伝子」入り込むと遺伝子の働きが阻害され色素が作られなくなりますが、その「動く遺伝子」が飛び出すとこれら遺伝子の働きが復帰し、ベタキサンチンもしくはベタシアニンが合成されるようになり、黄色あるいは赤色の花の色となります。白色というのは色素が作られていない(白色の色素と言うのはありません)ことで、オシロイバナの場合はC遺伝子もR遺伝子も働いていない部分が白くなります。さて、ここで少しむずかしくなりますが、遺伝子はいつも働いているものでなく、特定の時期(成長段階)に特定の場所(組織や細胞)だけで働いて、その他の時期や、場所では働かないものがたくさんあります。これは遺伝的に決まっているものですが、ある場合には「動く遺伝子」トランスポソンが飛び込んで働きを抑えたり、また飛び出して働きを復活させたりします。オシロイバナの花色の白い部分はこのトランスポソンがC遺伝子とR遺伝子の両方に入り込んでいるためです。ところがトランスポソンは気まぐれで、一度入った場所から飛び出すことがありますので、色素の合成が復活するのです。白地部分のC遺伝子にいたトランスポソンが飛び出すとC遺伝子は復活しますから黄色の色素を作ります。さて、トランスポソンはいつ動くかというと、細胞が分裂するときに動きます。オシロイバナの場合、花弁のように見えるのは萼片ですので、萼片のもととなる細胞が分裂して 萼片が形成される際に、たとえば最初の分裂の後、2つの細胞になった時に片一方の細胞でトランスポゾンが動けば、その細胞から分裂してできてくる花弁の部分の細胞においてはすべてトランスポゾンがない状態になっているため、極端な場合には花の半分が白、残り半分が赤色(黄色)になります。萼片になる細胞の分裂が進んでからトランスポゾンが動いた場合には、 その他の多くの細胞ではトランスポゾンが挿入されたままであるため、広い範囲で白地になり、その中に点々と、あるいは線状に存在するトランスポゾンが抜けた細胞が赤や黄色の斑入りとして見えるような形になります。それでは何がこのトランスポゾンが「動く」タイミ ングを決めているのか?私どもの研究室でも調べているのですが,未だにその機構はわかりません。

小関 良宏(東京農工大学大学院生命工学)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-09-01
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