質問者:
教員
めしだ
登録番号2063
登録日:2009-08-31
自由研究で児童が葉脈標本作りをしていて「先生、葉っぱの中心の太い葉脈から、葉っぱの外側に向かう少し細い葉脈の分かれ方には何か規則性があるか」と尋ねられました。確かにキンモクセイやツバキ、ヒイラギの葉の葉脈の分かれ方には規則性があるようにも感じられますが、実際に主脈から少し太い葉脈が分かれた間隔を調べたのですが、顕著な規則性が見られないような感じもします。どうか教えてください。よろしくお願いします。
みんなのひろば
葉脈の枝分かれには規則性があるのか?
めしだ 様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
さて、以下のご質問ですが、葉脈のパターンがどのようにしてつくられていくのかという問題はまだ未解決の事が多く、分子レベルでの研究や、数理モデルを使った理論的な研究や生態学的な研究などが現在進行しています。生物の形やパターンは基本的には遺伝子によって決まりますので、その意味ではある規則性があると言えましょう。しかし、それぞれの遺伝子の発現の仕方は全く機械的の行われる訳ではありませんので、多少のずれや歪みが出るのは当然です。どんな生物でも外見的には全ての構成要素が規則正しい配列になっているように見える場合でも、ミクロではそうではないが普通です。特に、植物はその発生•成長が温度、光、水分、土壌、などなどの外的環境要因によって大きく左右されますので、たとえ一枚の葉でも、それが形成されてくる過程は恒常的な条件下で進行している訳ではありません。しかし、何かを、例えば葉脈の側脈分岐の間隔などを極めて厳密に測って、それが一致していないので、側脈分岐は規則的には起らないと単純に結論する事はできません。生物では数値的に判断する時、必ずデータを統計処理して結論をだします。
個々のデータは一見ばらばらでも、統計的にみて、規則性があるという場合もあるのです。
この問題については、葉脈のパターン形成について研究をされた事がある、東京大学大学院理学系研究科附属植物園の杉山宗隆先生に回答していただきました。小学生に説明するのは大変かもしれませんが、ご検討下さい。
[杉山先生の回答]
主脈から側脈が分岐する間隔についてのご質問ですが、一言でお答えすれば、基本的には間隔は概ね一定、ということになるかと思います。しかし、実際にはかなりばらつきがあって、実測値を並べてみてもランダムなように見えるかもしれません。ランダムかどうかは直感的にはわかりにくいことも多いので、統計処理をすれば良いでしょう。
側脈の分岐点の間隔は一定になるのが基本であるとします。しかし、実際にはそれほどきちんと一定していないのは、どうしてでしょうか。この理由としては、いろいろなことが考えられます。以下にいくつか挙げてみます。
1.葉脈パターンの形成機構についてはまだよくわかってはいませんが、有力な仮説は2つほどあります。このどちらも、側脈が分岐する間隔を直接モニターして調節する、というようなことは想定していません。葉脈が新たにできる場所は、すでに存在する葉脈や葉の空間全体との関係で決まってくる(大まかには、既存の葉脈がない空間がある程度広がっていると、そこに新たに葉脈が入り込んでくる)と考えられています。また、これらの仮説のメカニズムの根本には、細胞間に生じたわずかな差異が拡大し固定される過程が含まれていますが、この最初のわずかな差異が生まれるところでは偶然が作用します。これが正しければ、葉脈の分岐間隔の規則性が非常に緩やかであるのは、葉脈パターンの形成機構がそういうものだから、ということになります。
2.側脈は、葉が完全に展開し成長しきってから、一斉にできるというわけではありません。太い側脈を観察されたとのことですが、そのような側脈の形成は、おそらく葉がまだ非常に若く小さい時期に始まっていたと思われます。そうであれば、側脈形成後の葉の成長が問題になります。仮に側脈の分岐間隔が厳密に一定になるよう調節されているとしても、分岐点が決まった後の成長が一様でなければ、最終的な分岐点の間隔は一定ではなくなります。
3.太い側脈だけでなく、できたばかりの細いものも含めて、すべての側脈を観察したら、どうでしょうか。今仮に、葉が成長して隣接する側脈分岐点の間隔がある値になると、そのちょうど中間に新たな側脈の分岐が起きるよう、厳密な調節がなされている、と考えてみます。この場合、葉の成長が止まるタイミングが、分岐点の間隔に大きく影響します。
ある場所では間隔がその値に達する直前に葉の成長が止まり、ある場所では新たな分岐ができた直後に成長が止まり、というようなわけで、いくら分岐点の間隔が厳密に調節されていても、最終的な間隔にはかなりの差ができることになります。
杉山宗隆(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
さて、以下のご質問ですが、葉脈のパターンがどのようにしてつくられていくのかという問題はまだ未解決の事が多く、分子レベルでの研究や、数理モデルを使った理論的な研究や生態学的な研究などが現在進行しています。生物の形やパターンは基本的には遺伝子によって決まりますので、その意味ではある規則性があると言えましょう。しかし、それぞれの遺伝子の発現の仕方は全く機械的の行われる訳ではありませんので、多少のずれや歪みが出るのは当然です。どんな生物でも外見的には全ての構成要素が規則正しい配列になっているように見える場合でも、ミクロではそうではないが普通です。特に、植物はその発生•成長が温度、光、水分、土壌、などなどの外的環境要因によって大きく左右されますので、たとえ一枚の葉でも、それが形成されてくる過程は恒常的な条件下で進行している訳ではありません。しかし、何かを、例えば葉脈の側脈分岐の間隔などを極めて厳密に測って、それが一致していないので、側脈分岐は規則的には起らないと単純に結論する事はできません。生物では数値的に判断する時、必ずデータを統計処理して結論をだします。
個々のデータは一見ばらばらでも、統計的にみて、規則性があるという場合もあるのです。
この問題については、葉脈のパターン形成について研究をされた事がある、東京大学大学院理学系研究科附属植物園の杉山宗隆先生に回答していただきました。小学生に説明するのは大変かもしれませんが、ご検討下さい。
[杉山先生の回答]
主脈から側脈が分岐する間隔についてのご質問ですが、一言でお答えすれば、基本的には間隔は概ね一定、ということになるかと思います。しかし、実際にはかなりばらつきがあって、実測値を並べてみてもランダムなように見えるかもしれません。ランダムかどうかは直感的にはわかりにくいことも多いので、統計処理をすれば良いでしょう。
側脈の分岐点の間隔は一定になるのが基本であるとします。しかし、実際にはそれほどきちんと一定していないのは、どうしてでしょうか。この理由としては、いろいろなことが考えられます。以下にいくつか挙げてみます。
1.葉脈パターンの形成機構についてはまだよくわかってはいませんが、有力な仮説は2つほどあります。このどちらも、側脈が分岐する間隔を直接モニターして調節する、というようなことは想定していません。葉脈が新たにできる場所は、すでに存在する葉脈や葉の空間全体との関係で決まってくる(大まかには、既存の葉脈がない空間がある程度広がっていると、そこに新たに葉脈が入り込んでくる)と考えられています。また、これらの仮説のメカニズムの根本には、細胞間に生じたわずかな差異が拡大し固定される過程が含まれていますが、この最初のわずかな差異が生まれるところでは偶然が作用します。これが正しければ、葉脈の分岐間隔の規則性が非常に緩やかであるのは、葉脈パターンの形成機構がそういうものだから、ということになります。
2.側脈は、葉が完全に展開し成長しきってから、一斉にできるというわけではありません。太い側脈を観察されたとのことですが、そのような側脈の形成は、おそらく葉がまだ非常に若く小さい時期に始まっていたと思われます。そうであれば、側脈形成後の葉の成長が問題になります。仮に側脈の分岐間隔が厳密に一定になるよう調節されているとしても、分岐点が決まった後の成長が一様でなければ、最終的な分岐点の間隔は一定ではなくなります。
3.太い側脈だけでなく、できたばかりの細いものも含めて、すべての側脈を観察したら、どうでしょうか。今仮に、葉が成長して隣接する側脈分岐点の間隔がある値になると、そのちょうど中間に新たな側脈の分岐が起きるよう、厳密な調節がなされている、と考えてみます。この場合、葉の成長が止まるタイミングが、分岐点の間隔に大きく影響します。
ある場所では間隔がその値に達する直前に葉の成長が止まり、ある場所では新たな分岐ができた直後に成長が止まり、というようなわけで、いくら分岐点の間隔が厳密に調節されていても、最終的な間隔にはかなりの差ができることになります。
杉山宗隆(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見允行
回答日:2009-09-14
勝見允行
回答日:2009-09-14