一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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組織培養について

質問者:   中学生   ゆり
登録番号2088   登録日:2009-10-05
 私は、自由研究でクローバーについて研究しています。この間の回答を参考にさせてもらったところ、町の展覧会で埼葛推薦賞になり、もうすぐ埼葛展があります。ありがとうございました。組織培養を初めて行い、ニンジンの根とクローバーの葉柄・葉・花梗・葡匐茎の節を培養しようと試みました。

《脱分化培地1》ショ糖20g NAA0,1mg BA1mg
《脱分化培地2》ショ糖30g 2,4-D10mg BA0,1mg
《脱分化培地3》ショ糖30g 2,4-D20mg BA0,1mg
 
 脱分化実験の結果は、カルスになったのがニンジンの根(培地2の1つだけ)で、他は全てコンタミネーションしてしまったのと、何も起こらずに枯れてしまいました。自分の中では、カルス化しない=コンタミネーションしてしまう、と思っていたのでとても不思議です。なぜ、何も起こらずに枯れてしまったのですか?(やはり、設備がしっかりできていなかったからでしょうか・・・・・・?)
 
《再分化培地A》ショ糖30g NAA0,2mg BA0,2mg   
《再分化培地B》ショ糖30g NAA2mg BA2mg     
《再分化培地C)ショ糖30g NAA20mg BA20mg 

 再分化実験の結果はどれも再分化せず、また、コンタミネーションもせずに枯れてしまいました。再分化しなかった原因は、おそらく脱分化実験開始から52日間も培養してしまったからだと考えたのですが、分かることがありましたら教えてください。
ゆり様

頑張っておられますね。ゆりさんの研究の成果をとても楽しみにしています。今回頂いたご質問の回答は、実際に組織培養の技術を使って研究を進めておられる京都大学の佐藤文彦先生にお願いいたしました。佐藤先生はご自分の経験を踏まえた以下のような回答をお寄せ下さいました。参考になるに違いないと思います。佐藤先生もおっしゃっておられますように、本職の研究者も繰り返し繰り返し条件の検討をしていますので、めげずに頑張って下さい。分からないことがあったら、遠慮しないで何度でも質問して下さい。応援しています。

柴岡 弘郎(JSPPサイエンスアドバイザー)

ゆり様
中学生で、組織培養の実験をやっているので、すこしびっくりしました。
どういうように、無菌操作をしているのかが、気になりますが、雑菌が混入していない場合もあるということなので、無菌操作は上手くいっているということを前提にお話します。
まず、何故、コンタミネーションをしていないのに、カルスができないのでしょうという質問ですが、理由は2つ考えられます。

1つは、殺菌のしすぎです。クローバーからカルスをつくるときに種子をつかわれたでしょうか?それとも、育っているクローバーそのものでしょうか?種子は比較的殺菌処理に強いものですが、植物としてそだっているクローバーはかなり殺菌剤に弱いとおもいます。また、自然に育っている植物の多くは微生物によって感染していることが多く、どうしても殺菌を強くしないと雑菌がはえてきてしまいます。そこで、我々がよくやっている方法は、まず、種子を殺菌して、無菌の植物体を作っておいて、それからカルス誘導することです。無菌培養の培地としては、雑菌が混入していたときに分かりやすいようにショ糖を少し含む培地(ショ糖10g/L程度、塩の濃度はカルス培養よりも半分程度以下)がよいとおもいます。また、殺菌の後、十分に殺菌剤を無菌水で洗い流して下さい。殺菌剤が残っていると、傷害がでてしまいます。

もう1つの可能性は、ホルモンの条件がよくなかったことです。脱分化の条件として、《脱分化培地1》ショ糖 20g NAA 0.1mg BA 1mg/L のNAA濃度は少し低すぎると思います。NAA 1mg 程度でしょうか?一方、《脱分化培地2》ショ糖 30g 2,4-D 10mg BA 0.1mg、《脱分化培地3》ショ糖 30g 2,4-D 20mg BA 0.1mg/L はいずれも、2,4-Dの濃度が高すぎ、BAの濃度がやはり低いようにおもいます。2,4-Dはご存じないかもしれませんが、除草剤としても用いるこ
とがあります。 通常は2mg程度以下で用いますので、場合によっては、2,4-Dが除草剤として働いた可能性もあります。一桁程度、濃度を下げてみてはどうでしょうか?

そういう意味では、再分化の培地は、脱分化に適しているものもあるように感じました。特に、《再分化培地B》ショ糖 30g NAA 2mg BA2mgは、上手くカルス化しそうな気がしますが、うまくいかなかったということは、最初に書いたように殺菌しすぎということかもしれません。なお、再分化の培地としては、《再分化培地A》ショ糖 30g NAA 0.2mg BA 0.2mg、《再分化培地C)ショ糖30g NAA 20mg BA20mg とも、適していないようにも思います。一般的には、芽を分化させる場合には、BAをNAAよりも一桁程度多くするということがためされています。今回の場合でいえば、《再分化培地A》ショ糖 30g NAA 0.2mg BA 2mg ぐらいが適当ではないでしょうか?

また、培養の温度にも注意したほうがよいかもしれません。できれば、24-28℃程度の室温で、暗所で培養できればよいのではないでしょうか?

これ以外にも、品種によって、培養、再分化の能力、並びに、最適の培養条件に違いがあることもしられています。
ちょっと文献を調べてみたところでも、株によって、再分化能力に大きな違いがあることを記載しているものがありました。
研究者でも何度も挑戦して、培養条件の検討を行っていますので、1回の挑戦でくじけずに、再度挑戦してください。
京都大学
佐藤 文彦
回答日:2009-10-08
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