一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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糖含有量の品種間差異

質問者:   公務員   農業生産者
登録番号0021   登録日:2004-01-13
当方では植物の生育速度に興味を持ち、エネルギー源である糖について調べてみたところ、植物の品種間で糖(Sucrose,Glucose,Fructose)含有量に違いがあることがわかりました。
お教え願いたいことは、これらの糖はどのような遺伝子(酵素)の働きにより制御されているのか? ということです。
糖含有量が少ないが、生育速度が速い品種は他の品種に比べてどのような遺伝子(酵素)の働きが優れているのかを調べられればと思っております。
ご高名な先生方のアドバイスを頂きたくメールさせて頂きました。
ご回答よろしくお願いいたします。

北海道大学の山口淳二先生から下記のような回答を頂きました。
文章中にもありますように、植物種で応答が違うというところが曲者です。

参考になれば幸いです。
JSPP広報委員会

[回答]
 植物の生育速度と糖の関連性は、古くから植物生理、作物生理学的に指摘されて来ましたが、なかなかすっきりとした答えは出ていません。確かに、植物種・品種間での糖含有量の違いが生育速度に影響を与えることがあると思います。一般的に、葉脈(維管束)を通って器官(葉、根、花、種子等)間を移動する糖として、スクロース(sucrose)があり、これがグルコースやフルクトースに変換するには、インベルターゼ(invertase)やスクロース合成酵素(sucrose synthase)が利用されます。実際上記の酵素活性を人為的に変えることで、生長が良くなったり、ストレス耐性を獲得したりすることも報告されています。ただし、そのような植物では、同時に正常な植物の発生が出来なくなる場合も報告されています。先程示した酵素でも、植物には同じような酵素活性を持つタンパク質をコードしている遺伝子が複数あり(これを多重遺伝子族といいます)、植物の生長時期や器官といった時間や場所の違いによって重
要な遺伝子は異なることが多くあります。ですから、「この遺伝子を何とかすれば必ず良くなりますよ!」といいたいのは山々ですが、実際には目的とする植物種や条件によって鍵となる酵素(遺伝子)は違ってくると考えた方が良いと思います。 
 また、細胞に糖が多く含まれすぎると今度は害になります。それを回避する手段として、デンプンのような貯蔵物質に変換する必要があります。植物の生長は、光合成による糖の合成→
同化デンプンの合成→
スクロースへの変換→
糖(スクロース)の必要な器官への移動→
糖を利用した生長(糖の貯蔵:デンプン合成)、
といった一連の光・化学エネルギー変換・輸送プロセスの結果です。生長はあくまでもこのバランスの上に成り立っています。光合成で得られるエネルギーの総和は有限です。ですから、たとえばここに病気・乾燥といったストレスが加わるとその対処のためにエネルギーを消費せざるを得なくなり、結局生長を抑える必要が生じます。植物にとって、エネルギー生産の増大や糖含量の増加が即生長に結びつくわけではなく、まず自らの個体維持があり、それから生長・種保存(種子等の生産)があるわけです。
 歯切れの良いお答えにならなくて申し訳ありませんが、だからこそ地道な研究が必要だということを判っていただければ幸いです。

山口 淳二
北海道大学大学院理学研究科
http://bio2.sci.hokudai.ac.jp/bio/keitai2/Welcome.html
回答日:2006-08-10
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