一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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PHが与える種子の発芽への影響

質問者:   高校生   ナカティー
登録番号2109   登録日:2009-11-11
実験でPH=7(蒸留水)とPH=5、PH=3(硫酸を薄めたもの)の溶液を使ってインゲンの発芽の実験をしたのですがPH=5のほうがPH=7よりもはやく発芽し発芽率も高かったのですがどうしてでしょうか?

またこの結果からだと弱酸性の雨のほうが植物にどっては良いのではないでしょうか?
ナカティー さん


質問コーナーへようこそ。歓迎致します。種子の発芽に対するpHの影響は、学校の実験でよく取り上げられるようですね。質問に直接の回答をする前に、種子の発芽というプロセスをもう一度復習してみましょう。


 種子には胚があり、発芽とは胚が成長を始める(再開する)ことです。普通は最初に幼根が種子を破ってでてきます。この時点で発芽したと考えます。さて、胚が成長をするということは胚を作っている個々の細胞が大きくなることであり、また、新しい細胞が作られて行くことです。そのためには、水分と養分の補給が必要です。養分は細胞を構成してい複雑な物質の合成の原料となり、また、これらの物質を合成するためのエネルギー源になります。胚が成長を始めて幼植物になってもまだ光合成を行って自前で必要な有機養分を供給する事はできません。そこで、胚の成長に必要な養分は種子に蓄えられている養分(主として、デンプン、タンパク質、脂肪などの大きい分子)を分解して供給します。分解されて利用されるのはブドウ糖やアミノ酸や脂肪酸などの低分子の物質です。貯蔵物質は胚乳や胚の子葉などに存在します。これらの貯蔵物質が分解されるには酵素の働きが必要です。完熟した種子は乾燥していますので、そのままでは酵素は働く事ができません。酵素が働くには水分がなくてはならないのです。これらの基礎的な事は、本コーナーの登録番号1881の質問への回答にも書いてありますので、読んで下さい。また、同コーナーで「発芽」という項目で検索してみれば、関連する質問と回答がたくさんありますので、参考にして下さい。


 いま種子を水の中に入れると、種子がよほど固くない限り、すぐさま吸水が始まります。乾燥した種子(複数の種子を遣うのが望ましい)の重さを量っておき、それらを水の中に入れ、一定時間毎に取り出して、種皮に付いた水分を拭い取り、重さを量ります。そうすると、時間と共に種子の重さは増加していきます。最初の重さとの差が吸水量になりますね。ある時間になると、重さに変化が見られなくなります。この時点で種子は目一杯水を含んだことになります。その後、変化のない時間が経過して、再び重さの増加がはじまります。この時は大体発芽の始まった時期に対応します。この吸水のプロセスの時間的経過は種子の種類によってさまざまです。ただ、最初の吸水の過程は物理的なもので、種子(胚)が死んでいても起ります。死んでいる種子では第二段階の吸水は見られない事になります。さて、最初の吸水はどうやって起きるのかというと、高分子貯蔵物質が水を吸って膨潤していくからです。


 そこで、あなたの質問に関係してくるのですが、タンパク質など高分子物質はコロイドという状態で存在していますので、その吸水はpHの影響を受けます。普通中性よりは酸性のほうが早くかつ効果的に吸水します。しかし、発芽のほうはどうでしょうか。酸性条件が望ましいと考えられる事の一つは、貯蔵物質を分解する酵素の最的pHは酸性側にあるかもしれないということです。


 しかし、あなたがどのようにして発芽実験をしたのか、実際の数値(結果)はどうなのかなどが分かりませんので、実のところ何ともいえません。一般に種子の発芽はpH6~7.5位のところが最適とされています。国際種子発芽検査協会(ISTA, International Seed Testing Association)によると種子の発芽試験はこのpH域で行うことを勧めています。これよりpH域をはずれると発芽は抑制されるからです。もちろん種子の種類にもよります。しかし、インゲンマメの種子は特殊の種子ではありませんので、発芽の最適pHはやはりこの値の範囲にあるのだとおもいます。もうひとつ、あなたの実験には問題があります。pHの影響を見る場合には必ず緩衝液(バッファー溶液)を用います。溶液のpHは変わり易く、ある溶液に何か他から加わるとそのpH大きく変化します。緩衝液とはそのような変化が最小になるように調整されているものです。硫酸の溶液だけだと、種子が入ると種子から溶け出る様々な物質が当然硫酸溶液のpHを変えてしまいます。はじめと終わりでpHが変わっていないか調べましたか。ほんとうにpH5の影響を見たことになるのかどうか。もし仮にpH5で発芽が明らかに良いということであれば、インゲンマメの発芽のプロセスで起きる様々な変化にはpH5の方が効率的だったという事でしょう。種子の発芽に至るプロセスは共通であっても最適発芽条件は植物の種によって一律ではありません。


 次に酸性雨にことですが、酸性雨の原因は雨に含まれる硫酸などが主たる原因です。しかし、酸性雨には他の物質も多く含まれており、それらの多くは植物にとって有害です。また、種子の発芽にとっても阻害的です。あなたの実験結果(詳しい事が分かりませんので)だけで、酸性雨もおなじだと考える事はできないでしょう。

JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2009-12-02
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