一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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フィトクロムと暗条件について

質問者:   教員   ベルーガ
登録番号2115   登録日:2009-11-18
高校生物の花芽形成では、Pfr型フィトクロムは、暗条件でPr型になるとのことですが、それは暗条件であっても遠赤色光が存在していて、それを吸収してPr型になるということでしょうか。明条件では、多くの赤色光と少量の遠赤色光があるためPfr型にかたより、暗条件では、少量の遠赤色光だけなので、Pr型に偏るということなのではないかと推察したのですが、それでいいのでしょうか。自然状態での明暗周期と遠赤色光の関係が分かりづらいので、教えていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。 
ペルーガ様

日本植物生理学会みんなの広場質問コーナーをご利用頂きどうも有り難うございます。今回のご質問の回答をフィトクロム研究の専門家である、京都大学大学院理学研究科の長谷あきら先生に回答をお願いして、以下の様なメールを頂きました。


実際の花芽形成の制御は非常に複雑で不明な点も多々残っていますが、フィトクロムの発見につながった重要な生理現象であることは間違いありません。さて、「暗条件でPr型になる」という現象は、「遠赤色光を吸収してPr型に戻る」という現象とは別です。すなわち、遠赤色光照射によりPfrが速やかにPrに戻る反応(遅くとも数分以内で完了)と、暗所において置くとゆっくりとPrに戻るという反応(数時間から一晩必要)の両方が存在します。
さらに植物は複数の種類のフィトクロムをもち、その一つのPfrは、他のフィトクロムのPfrに比べてより速やかに(1,2時間以内)分解され、新しく合成されたPrと置き換えられることもわかっています。なお、短日植物と長日植物では、フィトクロムの働きは一見、逆になりますが、その理由を理解するには、複数のフィトクロムと複数の反応に加えて、花芽形成を制御する他の因子の挙動と併せて考える必要があります。これは、残念ながら高校生物のレベルを超える話になる上に、まだまだ不明な点が多い分野です。

ご質問の趣旨とは少し離れますが、フィトクロムの生理機能について少し補足します。植物は、昼夜の違いを始めとして、大きな光環境の変動に日々さらされていますが、そのなかで、フィトクロムは機能的には二つの働きをしています。その一つは、暗いか明るいかを判断する働きで、この場面では、実は遠赤色光に対する応答性はあまり意味を持ちません。というのは、自然界で純粋な遠赤色光が照射される場面が無いからです。一方、植物の近くに他の植物が存在すると、植物に届く光のなかで遠赤色光の成分が増加します。これは遠赤色光を見分けられない我々人間にとっては判りにくい変化ですが、植物にとっては大きな意味をもちます。このような状況を感知するのがフィトクロムのもう一つの働きで、このような応答は、他の植物がつくる陰を避ける応答、すなわち避陰応答として知られています。避陰応答においては、遠赤色光成分が相対的に増加し、フィトクロムの光平衡がよりPr型に偏ることで、様々な生理応答がおきます。


長谷 あきら(京都大学大学院理学研究科)
日本植物生理学会広報委員長
徳富 哲
回答日:2009-11-25
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