一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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鉄分3倍含むコメの開発について

質問者:   公務員   杉田 敬一
登録番号2133   登録日:2010-01-14
 本日14日付けの朝刊に、東京大学の西沢教授らが鉄分を通常の3倍含み、貧血解消にも効果が期待できるコメの開発に成功したという記事が出ていました。その中で、この品種について途上国の栄養不足にも資するために国際稲研究所とも協力して実用化を進めたい、との西沢教授のコメントが紹介されていましたが、それを読んだ一般の方から、「途上国では土壌汚染がひどい地域もあり、この品種はカドミウム等の有害な重金属も地中から吸収してしまうのではないか」との質問を受けました。
 そのような懸念があるのかどうか、一般の方向けに分かりやすい説明をお願いできないでしょうか。よろしくお願いします。
杉田 敬一 さま

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

「鉄分を3倍含むコメの開発について」のご質問は、その研究をされている西澤直子先生に直接伺いました。植物は土壌中のいろいろな無機イオンを栄養分として根で吸収しますが、無機イオンは、それぞれ対応する特別な輸送体(トランスポーター)によって細胞の中に取り込まれます。西澤先生は、ムギネ酸類に包まれた鉄イオンが特異的な輸送体で吸収されることを発見されて、このムギネ酸類の前駆物質を合成する酵素を増加したイネを解析されたものです。西澤先生から次のような回答をいただきました。


今回発表したニコチアナミン合成酵素を強化したイネは、ニコチアナミンだけではなく、ムギネ酸類の量も増加していました。ニコチアナミンとムギネ酸類の両方の効果で、鉄の地上部と種子への移行量が増加し、種子の鉄含量が上昇しました。移行だけではなく、土壌からの鉄吸収も増えているということになりますが、土壌からの鉄の吸収増加は主としてムギネ酸類の効果であると考えられます。

しかし、ムギネ酸類はカドミウムの吸収には寄与しないことが報告されています。ですから、鉄の吸収が増えてもカドミウムの吸収は増えないと考えられます。砒素も問題になるイオンですが、特異的な輸送体で取り込まれる他、珪酸の輸送体でも取り込まれることが分かっています。

このように植物は土壌中に存在すれば、それをすべて吸収するわけではなくトランスポーターによって厳密に取り込みを制御しています


西澤 直子(東京大学大学院)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-01-22
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