一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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冬野菜の糖度の件

質問者:   一般   黒鳩金
登録番号2140   登録日:2010-02-03
 大根や白菜などの冬野菜は、寒がくると甘くなるのはなぜですゥ?
黒鳩金 様


本コーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございます。当方の事情で少しおそくなりましたが、ご質問には岩手大学・寒冷バイオフロンティア研究センターの上村 松生先生が回答文を用意して下さいました。ご参考にして下さい。


(上村先生からの回答)

今年の冬は、寒くて雪が降りやすい地方が多いようですが、黒鳩金さんのところではいかがですか?私が住んでいる盛岡市では、2年ぶりに二桁のマイナス気温を記録(11回も!)しました。このような年は冬野菜がますます甘くなりますね。


冬野菜の甘さは、人間がその味を楽しめるように彼らが仕組んでいるものではありません。葉菜類や根菜類等の野菜を含む越冬性植物の多くは、秋から冬にかけての気温の低下(植物によっては日の長さが短くなることも関係)を感じて、冬の厳しい寒さに耐えられるような身支度を始めます。そのような身支度の一つが、水に溶けやすく電気的に中性な物質を細胞の中に蓄積することです。このような物質の代表が、蔗糖やブドウ糖、果糖など私たちが楽しんでいる冬野菜の甘さの成分なのです。全ての植物で明らかになっているわけではありませんが、今までの研究結果をまとめると、植物が低温に遭遇すると蔗糖などの合成系が活性化し、それと同時にデンプン合成系が不活性化します。さらに、植物の呼吸が低下し生長速度は遅くなりますので、光合成で作られたブドウ糖は生長やデンプン合成に使われるのではなく、細胞内に蔗糖などの形で蓄積することになります。これらの応答経路は、植物が低温をどのように関知するかを始め、まだ未解明の部分が多く残されています。


では、なぜ、植物は秋から冬にかけて細胞の中に糖を蓄積するのでしょうか?植物の組織が凍結する様式については、質問1123の回答をご覧ください。それを読んでいただいたという仮定でお話しをします。植物細胞が糖などを蓄積する第一の理由は、細胞の中を凍りにくくするためです。通常、多くの植物では気温が氷点下になると細胞の外に氷ができます。糖などが蓄積すると、細胞内液の濃度が上昇し、細胞の外に氷が存在していても細胞の中に侵入しづらくなるため、細胞内はますます凍りにくくなります。つまり、細胞が生きられる確率は高くなるのです。もう一つの理由は、細胞外の凍結により脱水状態になった細胞内に存在するタンパク質や核酸、多くの生体膜を保護する役割があるためです。蓄積された糖は非常に親水性が高いため、同じく親水性の高いタンパク質や核酸、それに様々な生体膜に結合し、これらの物質を凍結による変性から保護することができると考えられています。従って、細胞の中に糖類を蓄積することは、植物にとって厳しい冬を生きるために欠かせないことなのです。


私が住んでいる岩手県では、冬になると「寒締めホウレンソウ」や「寒締めコマツナ」が八百屋さんの店頭を飾っています。これは、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター(http://tohoku.naro.affrc.go.jp/DB/kanjime/kanjime.html)が中心となって開発したもので、糖類に加えてビタミン類も豊富に含まれている栄養価の高い野菜であることがわかっています。植物たちが備えている巧妙な冬越しの機構を利用して、私たちは豊かな食生活を送っているのです。植物たちに感謝ですね。


上村 松生(岩手大学農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2010-02-22
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