一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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色素の生成経路

質問者:   高校生   おたね
登録番号2143   登録日:2010-02-06
リンゴについて勉強しています。以前、クロロフィルとアントシアニンが生成されるには光が必要であること、カロチノイドの生成には光を必要としないので抑制するには酸素を断つとよいことを教えていただきました。実際に袋をかぶせたリンゴはクロロフィルとアントシアニンができず真っ白になりました。またそのリンゴを真空パックしたらカロチノイドの生成が抑制されたらしく黄色になるのが遅くなりました。教わったとおりになり驚いています。今、まとめようと整理していますが苦手分野でなかなか難しいうえ、参考になる書籍もみつけられず苦戦しています。クロロフィル、アントシアニン、カロチノイド生成経路を光とからめて簡単に教えてください。
おたね さま

クロロフィールはグルタミン酸から出発して20の反応段階を経てクロロフィールa, bが合成されます。このうち光が必要な反応は、ジビニルプロトクロロフィリドa(A)からジビニルクロロフィリドa(B)への反応段階です。そのため、太陽光が当たらないと(A)から(B)への反応段階が進行しないため、(A)は蓄積しますが(B)ができないため、(B)から、いくつかの反応を経て合成される緑色のクロロフィールa, クロロフィールbも合成できません。そのため、暗黒下で種を播いて育てると、いわゆる“もやし”の状態となり、これを黄化植物とよんでいます。野菜の“もやし”はマメを暗いところで播いて育てためばえです。“もやし”は一種の黄化植物ですが、暗黒で育てるため緑色のクロロフィールアは合成できませんが、カロチノイドの合成には光がいらないため、カロチノイドは含まれています。
光合成生物の内、リンゴを含め全ての種子植物(被子植物)のクロロフィール合成にはこの様に光が必要ですが、しかし、種子植物より前に地球に出現した藻類や裸子植物(マツ、イチョウ、ソテツなど)では、種子植物で光が必要な段階でも光を必要とせず、暗黒下でもクロロフィールが合成できます。
アントシアニンの合成段階そのものに光を絶対に必要とする反応はないようです。しかし、アントシアニンは紫外線や強光による障害を防ぐためのフィルターの役割をもっているため、アントシアニンの合成量は光によって調節されていると考えられています。

一方、カロチノイド合成に光は必要ではありませんが、しかし、これを合成するためには多くの反応段階があり、生体エネルギーの源であるATPが合成のために必要です。ATPは葉の組織では太陽光エネルギーによって葉緑体で合成できますが、リンゴの果実のように葉の組織以外では、動物と同じように、糖を消費するミトコンドリアでの酸素呼吸によってATPを生産し、これによって細胞内のいろんな成分を合成しています。リンゴの果実を真空パックで囲んで細胞に酸素が供給できないようにすると、ミトコンコンドリアでATPを生産できなくなり、カロチノイド、アントシアニンなどを合成するために必要なATPを供給できないため、これらの色素が合成できないと考えられます。これまでの、登録番号1601, 登録番号1942, 登録番号2072への回答も参考にして下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-07-20
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