質問者:
教員
Saito
登録番号2145
登録日:2010-02-08
中学校理科教師です。教科書にも載っている実験ということで花粉管の発芽の観察をほぼ毎年行っています。扱いやすい素材として「ブライダルべール」というツユクサ科の多年草を使用しています。花粉管の本数
花粉を寒天培地ショ糖(5〜10%)につけると,1個の花粉から2本の花粉管が伸びているのを目にします。このように,1個の花粉から2本(あるいはそれ以上)の花粉管が伸びることは自然界で普通に見られる現象なのでしょうか?あるいは,寒天培地に散布した場合にのみ見られる現象ということならば,その原因など教えていただければ幸いです。
また,先日ある方から複数の花粉管の発芽は「浸透圧ショック」によるものである旨のお話しをいただきました。これが「浸透圧ショック」による現象である場合,そのしくみについて教えていただければ幸いです。
ブライダルベールの花粉管の画像等は以下にアップロードしてございます。↓
http://tovu3110.blog19.fc2.com/blog-category-6.html
手元に専門書等ございませんので,こちらでお知らせいただければと思い,質問させていただきました。よろしくお願いいたします。
Saito さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「花粉管の本数」に関するご質問は、植物の生殖、受粉機構を専門に研究されている東山先生に伺い次のような解説をいただきました。実験条件と自然条件との違いによる生物の応答の違いはしばしば観察されることで、その原因などはまだ分からないことがたくさんあります。柱頭における花粉の発芽や花粉管の伸長のように、違った細胞種が接触しておこる現象では不都合なことが起きればそれを排除する仕組みができあがっていますので、実験条件でおきたことが自然界では観察されないことになるものでしょう。
【東山先生の解説】
花粉には花粉管があらわれる発芽孔が存在しますが、その数は植物種によって異なります。しかし複数の発芽孔がある場合も、伸長する花粉管はふつう1つです。1つの花粉から複数の花粉管が伸長し始める異常は、雌蕊に受粉して発芽する場合には、あまり見られないものと思いますが、培地上で発芽させる場合によく見られることがあります。複数の発芽孔が存在する花粉において、なぜ1つの花粉管だけが伸長し始めるのか、その仕組みについて詳しく調べた論文は存じません。しかし、花粉において、突然変異体の探索や、さまざまな異常を引き起こす薬剤の探索、またさまざまな分子を蛍光タンパク質で可視化した植物が作製されてきておりますので、そう遠くない将来、仕組みが明らかになってくるのではないかと思います。
培地上で1つの花粉から複数の花粉管が伸長する異常は、人工的な条件で発芽させているための異常であると考えられます。例えば、花粉管細胞において、伸長(先端成長)を開始する部位が決定されるまで、複数の予定部位において伸長開始を抑えておくための機構がうまく働いていない、などの可能性が想像できます。しかし、培地と柱頭とでは条件が異なりすぎるため、原因についてはよくわかりません。浸透圧も、原因の一つかも知れません。ただ、花粉管は比較的広い浸透圧範囲で発芽・伸長できることが知られています。浸透圧を変えてみて、異常の頻度が変化するか調べてみるといいかと思います。また、浸透圧ショックという言葉ですが、一般には浸透圧を変化させる場合に用いる言葉と思います。乾燥した花粉は、細胞膜の半透性も失っているとされます。もし浸透圧が原因の一つだとしても、「浸透圧ショックにより異常が生じる」という言い方は、あまり適切ではないかも知れません。
あまり具体的なことがわかっておらず、詳しく説明できませんでしたが、上記のような研究状況にありますので、今後注目して参りたいと思います。
東山 哲也(名古屋大学・大学院理学研究科)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「花粉管の本数」に関するご質問は、植物の生殖、受粉機構を専門に研究されている東山先生に伺い次のような解説をいただきました。実験条件と自然条件との違いによる生物の応答の違いはしばしば観察されることで、その原因などはまだ分からないことがたくさんあります。柱頭における花粉の発芽や花粉管の伸長のように、違った細胞種が接触しておこる現象では不都合なことが起きればそれを排除する仕組みができあがっていますので、実験条件でおきたことが自然界では観察されないことになるものでしょう。
【東山先生の解説】
花粉には花粉管があらわれる発芽孔が存在しますが、その数は植物種によって異なります。しかし複数の発芽孔がある場合も、伸長する花粉管はふつう1つです。1つの花粉から複数の花粉管が伸長し始める異常は、雌蕊に受粉して発芽する場合には、あまり見られないものと思いますが、培地上で発芽させる場合によく見られることがあります。複数の発芽孔が存在する花粉において、なぜ1つの花粉管だけが伸長し始めるのか、その仕組みについて詳しく調べた論文は存じません。しかし、花粉において、突然変異体の探索や、さまざまな異常を引き起こす薬剤の探索、またさまざまな分子を蛍光タンパク質で可視化した植物が作製されてきておりますので、そう遠くない将来、仕組みが明らかになってくるのではないかと思います。
培地上で1つの花粉から複数の花粉管が伸長する異常は、人工的な条件で発芽させているための異常であると考えられます。例えば、花粉管細胞において、伸長(先端成長)を開始する部位が決定されるまで、複数の予定部位において伸長開始を抑えておくための機構がうまく働いていない、などの可能性が想像できます。しかし、培地と柱頭とでは条件が異なりすぎるため、原因についてはよくわかりません。浸透圧も、原因の一つかも知れません。ただ、花粉管は比較的広い浸透圧範囲で発芽・伸長できることが知られています。浸透圧を変えてみて、異常の頻度が変化するか調べてみるといいかと思います。また、浸透圧ショックという言葉ですが、一般には浸透圧を変化させる場合に用いる言葉と思います。乾燥した花粉は、細胞膜の半透性も失っているとされます。もし浸透圧が原因の一つだとしても、「浸透圧ショックにより異常が生じる」という言い方は、あまり適切ではないかも知れません。
あまり具体的なことがわかっておらず、詳しく説明できませんでしたが、上記のような研究状況にありますので、今後注目して参りたいと思います。
東山 哲也(名古屋大学・大学院理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-02-12
今関 英雅
回答日:2010-02-12