質問者:
その他
ハリーちゃん
登録番号2146
登録日:2010-02-10
森林インストラクターをしています。そこで質問を受けました。ヤマコウバシは雌雄別株、日本には雌株しかないと図鑑にあります。雄株がないのに私のフィールではきちんと果実ができますし、図鑑でも果実ができると記載されてます。また雌株には明らかな仮雄株があります。通常は仮雄蕊には花粉ができないといわれますが、果実ができるということは受粉したとしか考えられません。まさか雌蕊が細胞分裂をして果実を作るとは考えられません。仮雄蕊は退化しつつあるが未だ多少の花粉を作っているのでしょうか。是非とも教えて下さい。
ヤマコウバシの果実
ハリーちゃん 様
頂いたご質問に対する国立科学博物館の門田先生のご回答を既にお送りしましたが、名古屋大学博物館の西田佐知子先生がこの問題に興味を持っておられると云うことを聞き、西田先生にもご回答をお願い致しましたところ、 Yoko さんと云う方の興味深い実験結果を紹介して下さいました。
実に発芽可能な種子が入っているのかどうかなど疑問がわきますが、雄株がないのに実が稔ることについては、説明出来ているように思います。私のあげた疑問の点については、ハリーさんが解いて下さることを期待しています。
[門田裕一先生の回答]
お問い合わせの件ですが、実は私もこのことが気にはなっていました。
とりあえず当館の標本庫で標本調査を行ってみたところ、ヤマコウバシの雄株と考えて良いもの(静岡県産)が一枚だけ出てきました。全体の1%以下です。
『ヤマコウバシに雄株がない』というのはいろいろな図鑑に掲載されていますが、一般の方の情報源としては、平凡社版『日本の野生植物 木本編II』と思われます。確かに、そこには『雄株がないが果実ができる』と書かれています。これはクスノキ科植物にも造詣の深い、故籾山泰一先生が書かれたもので、先生が観察された事実にもとづいていることは間違いないと考えて良いと思います。
1. ヤマコウバシはそれほど珍しい樹木ではないこと。
2. 秋にはよく目立つ黒色の果実を付けるのを良く見ること。
3. この方が指摘されているように、『雌花』は基本的に両性花だが、雄蕊が退化して、仮雄蕊staminodeになり、機能的に雌花になっていること。
これらは事実として確認できます。
(私も野外で雄株を見たことがありません)
上記のように低い頻度ながら雄株が存在することは、花は葉が展開する前に咲くために、クスノキ科クロモジ属のクロモジなどの近縁種と混同されている、という可能性が高いと思われます。
文献調査は充分ではありませんが、クスノキ科で無配生殖が起きているとは聞いたことはありません。
これでは質問された方が納得できるとは思えませんが、以上が今の私にできるご回答です。
植物分類学もかなり進歩したといって良いとは思うのですが、それぞれの種の生き様の中身についての理解はまだまだというのが現状です。
[西田佐知子先生の回答]
野外を実際に見ておられる方からでてきた大切な疑問を投げかけてくださり、どうもありがとうございます。私自信が研究したうえでの回答でなくて申し訳ないのですが、今までの他の人の研究報告に基づいて答えさせてもらいますね。
まず、結論からいいますと、ヤマコウバシは花粉がなくても実をつけることができます。ヤマコウバシに関しては、Yoko L. Dupontさんという研究者が京都周辺で行った研究があります(Yoko L. Dupont. 2002. Evolution of apomixes as a strategy of colonization in the dioecious species Lindera glauca (Lauraceae). Population Ecology 44:293-297)。
この研究の中で、彼女はヤマコウバシの雌しべの柱頭(雌しべの先端などにあって、通常花粉がつくところ)を取り除き、花粉がつくことができないようにして、結実するかどうかを調べました。その結果、柱頭を取り除いた花でも、何の処理もしていない状態の花とくらべて、遜色なく実をつけることがわかりました。
ヤマコウバシの雄花が日本に存在しないのかどうかは、確証はありません(ないということを証明するのはすごく難しいことですよね)。雌株にまれとはいえ雄花がつくような個体が、ヤマコウバシでないのかどうかも確証はないです。でも、少なくとも、ヤマコウバシの雄花は私も見たことがないですし、Dupontさんが研究した際にも見つかってはいません。また、門田先生が調べられた様子から言っても、ヤマコウバシの雄花がたとえ日本にあるとしても、雌花にくらべてひじょうに頻度は低いと考えた方がいいでしょう。上のDupontさんの実験結果から判断しても、今のヤマコウバシの観察から考えても、日本のヤマコウバシは、ふつうは雌花だけで結実している可能性が高いと考えられます。
日本のヤマコウバシがどのような仕組みで雌花だけで結実するのかは、まだわかっていません。無性生殖で果実を作る植物はまれにみられ、その仕組み(果実になるまでの過程)はいろいろあります。ヤマコウバシがそのどれにあたるのかは、今後の研究課題でしょう。また、日本で無性生殖で果実をつけているヤマコウバシに、国外のヤマコウバシの花粉をつけたらどうなるかも、気になるところです。
クスノキ科でこのように有性生殖なしに果実を作る例は、ヤマコウバシ以外知られていないと思います。なぜヤマコウバシが日本でこのような形で存在しているのか、早春の花を眺めながら推理してみるのも楽しいかもしれませんね。
門田裕一/西田佐知子(国立科学博物館/名古屋大学博物館)
頂いたご質問に対する国立科学博物館の門田先生のご回答を既にお送りしましたが、名古屋大学博物館の西田佐知子先生がこの問題に興味を持っておられると云うことを聞き、西田先生にもご回答をお願い致しましたところ、 Yoko さんと云う方の興味深い実験結果を紹介して下さいました。
実に発芽可能な種子が入っているのかどうかなど疑問がわきますが、雄株がないのに実が稔ることについては、説明出来ているように思います。私のあげた疑問の点については、ハリーさんが解いて下さることを期待しています。
[門田裕一先生の回答]
お問い合わせの件ですが、実は私もこのことが気にはなっていました。
とりあえず当館の標本庫で標本調査を行ってみたところ、ヤマコウバシの雄株と考えて良いもの(静岡県産)が一枚だけ出てきました。全体の1%以下です。
『ヤマコウバシに雄株がない』というのはいろいろな図鑑に掲載されていますが、一般の方の情報源としては、平凡社版『日本の野生植物 木本編II』と思われます。確かに、そこには『雄株がないが果実ができる』と書かれています。これはクスノキ科植物にも造詣の深い、故籾山泰一先生が書かれたもので、先生が観察された事実にもとづいていることは間違いないと考えて良いと思います。
1. ヤマコウバシはそれほど珍しい樹木ではないこと。
2. 秋にはよく目立つ黒色の果実を付けるのを良く見ること。
3. この方が指摘されているように、『雌花』は基本的に両性花だが、雄蕊が退化して、仮雄蕊staminodeになり、機能的に雌花になっていること。
これらは事実として確認できます。
(私も野外で雄株を見たことがありません)
上記のように低い頻度ながら雄株が存在することは、花は葉が展開する前に咲くために、クスノキ科クロモジ属のクロモジなどの近縁種と混同されている、という可能性が高いと思われます。
文献調査は充分ではありませんが、クスノキ科で無配生殖が起きているとは聞いたことはありません。
これでは質問された方が納得できるとは思えませんが、以上が今の私にできるご回答です。
植物分類学もかなり進歩したといって良いとは思うのですが、それぞれの種の生き様の中身についての理解はまだまだというのが現状です。
[西田佐知子先生の回答]
野外を実際に見ておられる方からでてきた大切な疑問を投げかけてくださり、どうもありがとうございます。私自信が研究したうえでの回答でなくて申し訳ないのですが、今までの他の人の研究報告に基づいて答えさせてもらいますね。
まず、結論からいいますと、ヤマコウバシは花粉がなくても実をつけることができます。ヤマコウバシに関しては、Yoko L. Dupontさんという研究者が京都周辺で行った研究があります(Yoko L. Dupont. 2002. Evolution of apomixes as a strategy of colonization in the dioecious species Lindera glauca (Lauraceae). Population Ecology 44:293-297)。
この研究の中で、彼女はヤマコウバシの雌しべの柱頭(雌しべの先端などにあって、通常花粉がつくところ)を取り除き、花粉がつくことができないようにして、結実するかどうかを調べました。その結果、柱頭を取り除いた花でも、何の処理もしていない状態の花とくらべて、遜色なく実をつけることがわかりました。
ヤマコウバシの雄花が日本に存在しないのかどうかは、確証はありません(ないということを証明するのはすごく難しいことですよね)。雌株にまれとはいえ雄花がつくような個体が、ヤマコウバシでないのかどうかも確証はないです。でも、少なくとも、ヤマコウバシの雄花は私も見たことがないですし、Dupontさんが研究した際にも見つかってはいません。また、門田先生が調べられた様子から言っても、ヤマコウバシの雄花がたとえ日本にあるとしても、雌花にくらべてひじょうに頻度は低いと考えた方がいいでしょう。上のDupontさんの実験結果から判断しても、今のヤマコウバシの観察から考えても、日本のヤマコウバシは、ふつうは雌花だけで結実している可能性が高いと考えられます。
日本のヤマコウバシがどのような仕組みで雌花だけで結実するのかは、まだわかっていません。無性生殖で果実を作る植物はまれにみられ、その仕組み(果実になるまでの過程)はいろいろあります。ヤマコウバシがそのどれにあたるのかは、今後の研究課題でしょう。また、日本で無性生殖で果実をつけているヤマコウバシに、国外のヤマコウバシの花粉をつけたらどうなるかも、気になるところです。
クスノキ科でこのように有性生殖なしに果実を作る例は、ヤマコウバシ以外知られていないと思います。なぜヤマコウバシが日本でこのような形で存在しているのか、早春の花を眺めながら推理してみるのも楽しいかもしれませんね。
門田裕一/西田佐知子(国立科学博物館/名古屋大学博物館)
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡弘郎
回答日:2010-02-18
柴岡弘郎
回答日:2010-02-18