一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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炭酸ガス濃度と呼吸量の相関について

質問者:   自営業   ばら農家
登録番号2149   登録日:2010-02-12
初めて質問させて頂きます。
施設園芸で切りバラを栽培しております。

以前よりハウス内の炭酸ガス濃度を上昇させると植物体の光合成能力を活性化させ、収量増加につながると言われ、実践しております(約2000ppmほどに上昇させており、1時間に600ppmほど吸収されます)。

その際に疑問に感じている点を2点、ご質問させて頂きます。

1.植物体内のCO2濃度は、一般的にどのくらいなのでしょうか?

2.光合成でCO2を取り込む際、呼吸でCO2を放出する際に植物体内と外気のCO2濃度差というのは、光合成量や呼吸量に相関があるのでしょうか?

光合成量に関しては、外気のCO2濃度が高い場合、気孔が開いたときに入ってくる量が多くなるイメージが湧くのですが、呼吸量に関しては、外気のCO2濃度が高い場合、体内からの排出が抑制されるとは思えないのです。

この質問の背景には、勉強会で
「昼間は炭酸ガスをこめて光合成を活発にさせろ。夜は炭酸ガスをこめ過ぎるな、呼吸量が減って同化作用の活性が低下するから。」と言ったアドバイスを頂いた事があるからです。  

乱筆で申し訳ありませんが、ぜひご教授願います。
ばら農家 様

このコーナーにご注目下さりありがとうございます。ご質問に関しては東京大学の野口 航先生が下記のような回答文をご用意下さいました。ご参考にして下さい。



(野口先生からの回答)

ご質問に回答させていただきます。

(質問1への回答)

光合成をしている葉では、CO2は葉の気孔の穴から入り、葉内の細胞と細胞の隙間(細胞間隙と言います)を通って、細胞内に取り込まれます。細胞内のCO2濃度を推定するのは難しいのですが、細胞間隙のCO2濃度は、測定値からある程度推定できます。「植物体内」ということがどちらを指しているかは分かりませんが、ここでは「細胞間隙」と見なして回答させていただきます。
細胞間隙のCO2は、葉の外部(外気)のCO2濃度やその葉の光合成速度(単位時間あたりの光合成量)によって変わります。外気のCO2濃度が上がれば、細胞間隙のCO2濃度は上がりますし、光合成が活発に起これば、細胞間隙のCO2濃度は下がります。大気CO2濃度条件(約390ppm)で、ある程度光合成をしている葉の場合には、細胞間隙のCO2は300ppmくらいになります。もっとCO2濃度が高い条件(例えば1500ppm)である程度光合成をしている葉の場合には、細胞間隙のCO2は1300ppmくらいになります。



(質問2への回答)

まず、光合成の場合をお答えします。

質問1でお答えしましたように、細胞間隙のCO2濃度は、外気のCO2濃度と光合成速度で決まります。また、ご存知のように、CO2は光合成に使われますので、細胞間隙のCO2濃度が上がれば、光合成は活発になります。光合成速度は「細胞間隙と外気のCO2濃度差」よりも、「細胞間隙のCO2濃度」と関係があります。

次に、呼吸についてお答えします。

葉の呼吸に関わる酵素は、かなりのCO2濃度(2%くらい)にならないと活性は低下しないと言われています。したがって、2000ppm程度の外気のCO2では、呼吸速度は直接的には影響を受けません。夜間の呼吸からのエネルギーは、昼間の光合成からできた生成物を移動することなど様々なことに使われています。ですので、夜の呼吸速度は間接的に昼間の外気のCO2濃度により変わる場合があります。また、夜のCO2濃度だけを高くするという実験をした結果がいくつか報告されています。植物の種や発生段階によって、成長が変化した例もありますが、その理由はまだ不明です。


うまく答えられたかどうかわかりませんが、回答とさせていただきます。


野口 航(東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻)
JSPPサイエンス・アドバイザー
佐藤公行
回答日:2010-02-18
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