質問者:
一般
EMU
登録番号2155
登録日:2010-02-27
ベンケイソウ科の中に、セイロンベンケイやコダカラベンケイなど、多数花をつけるにも拘らず、葉の鋸歯の間や先端から、幼植物体を出し、固体を増やしていくものがありますね。みんなのひろば
ベンケイソウ科の繁殖作戦
種子を作るエネルギーより、少なくて済むのでしょうか。
種子ならば、他の遺伝子が入るので、進化もありえますが、ハカラメ(葉から芽)であれば、クローンを増やすだけ・・に思えますが、こういうものの育つ場所に、対応する生き物が少ない、ということでしょうか。
サボテンやリュウゼツランなど、砂漠や暑い地域の植物に多いように思えます。
EMUさん
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一先生にお願いいたしましたところ、以下のような丁寧な回答をお寄せ下さいました。ご参考になるに違いないと思います。なお、以前、塚谷先生にお願いした登録番号1885 の質問の回答も合わせてご覧になって下さい。
EMUさん
質問をありがとうございます。
たしかにセイロンベンケイソウやコダカラベンケイソウ、キンチョウなど一群の種は葉や花序から芽を吹きますね。あれは昔、葉の細胞がそのまま芽に変わったものだと誤解されていましたが、実際は不定胚といって、タネの中にできる胚と同様のものを無性的に作っているものです。いずれにせよ、ご指摘の通り、無性生殖の一つです。ですのでお察しの通り、クローン繁殖です。クローンなので、遺伝的な多様性は、種子で増える有性生殖の場合に比べて低くなりがちではあります。ですが、それは必ずしも不利なことではありません。この無性生殖と有性生殖のメリットの違いは、以前この欄で答えたことがあるので(登録番号1885)、そちらをご覧下さい。
要点を再録すれば、有性生殖のデメリットは、まず何よりも、親と子が必ずしも似ないということです。ということは、今の世代がせっかくうまく環境に適応しているとしても、次の世代ではうまく行かないかもしれなくないということです。その代わり、大きな集団を作れば、その中には多様な個体が生まれる可能性が高まります。ただ、コストはやはりかかります。
一方、クローン繁殖なら、どの個体も同じ性能を持っていますから、ひとたび優れた個体が生まれれば、基本的にあとは安泰です。そのまま大量複製をしていけばいいだけです。ただし、問題はあります。それは、均一な性能の持ち主ばかりになった場合、変幻自在な病害虫に対応しきれないかもしれない、という点です。そこさえクリアできるなら、ほとんど問題はありません。この辺は拙著『植物のこころ』岩波新書でも解説していますので、良かったら参考になさってください。
そんなわけで、クローンで増えることは、デメリットばかりではありません。もちろんコストもかからず済みますし、何よりも性質が安定しています。ですので、コダカラベンケイソウの類は、そのクローンを生み出す速度と数が飛び抜けているので目立ちますが、クローンで日常的に繁殖するのは、コダカラベンケイソウの類に限りませんね。球根植物はみなそうですし、宿根草もほとんどそうですね。オリヅルランやユキノシタも、放っておくとランナーでものすごい数に増えていってしまいます。
ですので、多分本音としては、どんな植物もクローン繁殖の能力を欲しいところでしょう。ですので生育環境としても、コダカラベンケイソウの類は乾燥地適応ですが、これはたまたまです。例えば正反対の例として、日本だと高山帯でしか見られないムカゴユキノシタなどは、寒くて湿り気の高いところにしか生えませんが、これも栽培してみると、葉腋からぞくぞくと小さなムカゴを吹いて、コダカラベンケイソウ並の、ものすごい勢いで増えていきます。暑さや乾きとは関係なく、ともかくそういう性能を得たもの勝ちで、どんどん増えるようになったというわけです。
病気に対する抵抗性が強い遺伝子を獲得したか、あるいは病害虫の少ない環境に暮らすか、どちらかであれば、クローンくらい楽な生き方、増え方はないのです。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻教授)
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一先生にお願いいたしましたところ、以下のような丁寧な回答をお寄せ下さいました。ご参考になるに違いないと思います。なお、以前、塚谷先生にお願いした登録番号1885 の質問の回答も合わせてご覧になって下さい。
EMUさん
質問をありがとうございます。
たしかにセイロンベンケイソウやコダカラベンケイソウ、キンチョウなど一群の種は葉や花序から芽を吹きますね。あれは昔、葉の細胞がそのまま芽に変わったものだと誤解されていましたが、実際は不定胚といって、タネの中にできる胚と同様のものを無性的に作っているものです。いずれにせよ、ご指摘の通り、無性生殖の一つです。ですのでお察しの通り、クローン繁殖です。クローンなので、遺伝的な多様性は、種子で増える有性生殖の場合に比べて低くなりがちではあります。ですが、それは必ずしも不利なことではありません。この無性生殖と有性生殖のメリットの違いは、以前この欄で答えたことがあるので(登録番号1885)、そちらをご覧下さい。
要点を再録すれば、有性生殖のデメリットは、まず何よりも、親と子が必ずしも似ないということです。ということは、今の世代がせっかくうまく環境に適応しているとしても、次の世代ではうまく行かないかもしれなくないということです。その代わり、大きな集団を作れば、その中には多様な個体が生まれる可能性が高まります。ただ、コストはやはりかかります。
一方、クローン繁殖なら、どの個体も同じ性能を持っていますから、ひとたび優れた個体が生まれれば、基本的にあとは安泰です。そのまま大量複製をしていけばいいだけです。ただし、問題はあります。それは、均一な性能の持ち主ばかりになった場合、変幻自在な病害虫に対応しきれないかもしれない、という点です。そこさえクリアできるなら、ほとんど問題はありません。この辺は拙著『植物のこころ』岩波新書でも解説していますので、良かったら参考になさってください。
そんなわけで、クローンで増えることは、デメリットばかりではありません。もちろんコストもかからず済みますし、何よりも性質が安定しています。ですので、コダカラベンケイソウの類は、そのクローンを生み出す速度と数が飛び抜けているので目立ちますが、クローンで日常的に繁殖するのは、コダカラベンケイソウの類に限りませんね。球根植物はみなそうですし、宿根草もほとんどそうですね。オリヅルランやユキノシタも、放っておくとランナーでものすごい数に増えていってしまいます。
ですので、多分本音としては、どんな植物もクローン繁殖の能力を欲しいところでしょう。ですので生育環境としても、コダカラベンケイソウの類は乾燥地適応ですが、これはたまたまです。例えば正反対の例として、日本だと高山帯でしか見られないムカゴユキノシタなどは、寒くて湿り気の高いところにしか生えませんが、これも栽培してみると、葉腋からぞくぞくと小さなムカゴを吹いて、コダカラベンケイソウ並の、ものすごい勢いで増えていきます。暑さや乾きとは関係なく、ともかくそういう性能を得たもの勝ちで、どんどん増えるようになったというわけです。
病気に対する抵抗性が強い遺伝子を獲得したか、あるいは病害虫の少ない環境に暮らすか、どちらかであれば、クローンくらい楽な生き方、増え方はないのです。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻教授)
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡弘郎
回答日:2010-03-04
柴岡弘郎
回答日:2010-03-04