質問者:
教員
H.S
登録番号2161
登録日:2010-03-18
高等学校でオーキシンを学習する時、器官での感受性の違いや最適濃度が存在することを説明します。このことと関連して、頂芽優勢や重力屈性の話題へと関連していきます。しかし、どうして最適温度が存在するか疑問に思い調べましたが良く分からなかったので、質問コーナーに質問することにしました。オーキシンを感受して、そのシグナルがオーキシンに応答した遺伝子の発現に関与しているなら、オーキシンが多すぎで遺伝子が発現しないという理由がわかりません。そこで2点質問します。みんなのひろば
植物ホルモンの最適濃度
(1) オーキシンが過剰に存在するときに、茎の伸長が阻害される理由
(2) オーキシン以外(例えばジベレリン)にも最適濃度があるのか
よろしくお願いします。
H.S さん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「どうして最適温度が存在するか」は「最適濃度」の間違いと思いますのでそのつもりでお答えします。
(1)のご質問に対する生理学的な説明は、オーキシンによるエチレン生成がその原因とするものです。オーキシンを植物組織に与えるとエチレン生成がおきます。オーキシン濃度の増加とともにエチレン生成量も増加します。
エチレンは茎、根の伸長成長を阻害する作用があります。茎では、外から与えるオーキシン濃度が1マイクロモル程度までに生成されるエチレンはオーキシンの伸長促進効果を抑制するほど強くありませんが、オーキシンがそれ以上の濃度で生成されるエチレン濃度による伸長阻害効果はオーキシンの伸長促進効果よりも大きくなるために、伸長だけを指標とするとオーキシンの効果は最大の促進効果の後に次第に低下することになります。つまり見かけ上、最適濃度があるように見えます。ちなみに、オーキシンによるエチレン生成速度の増加を指標とすると、オーキシンは1ミリモル程度の高濃度まで促進効果が増加し最適濃度は観察されません。
(2)のご質問については、生理的濃度の範囲(最大0.1ミリモル程度)では最適濃度は観察されません。ジベレリンを過剰投与しても伸長促進やアミラーゼ形成効果は飽和した状態で、効果が低下するとする観察は報告されていません。その他の植物ホルモンについても同じと考えて差し支えないと思います。
しかし、ここで「生理的濃度の範囲」と制限を加えたのは、どのような物質でも過剰量を与えると特異的効果とは別の効果(生理的には害効果)が現れるのが通常だからです。また、植物ホルモン間には相互作用があります。1つの植物ホルモン濃度を変えると、すでに組織内にある別の植物ホルモンとの量比が変わりますので、相互作用の質が変わり別の効果が発現することもあります。
植物ホルモン信号伝達系の研究は最近たいへん進んでいます。確かに、オーキシンを始め植物ホルモンは遺伝子発現を調節していますが、最終的に生理作用をおこす(たとえば細胞伸長の作業をする)ために必要な遺伝子がどんなもので幾つあるのかなどはまだ分かっていません。また、その信号伝達系は直線的ではなく、途上にたくさんの抑制的遺伝子、促進的遺伝子などの発現とそれらの相互作用を介したネットワーク(ジャングルジムのような3次元的、時間軸を加えれば4次元的な)となっています。そのため、植物ホルモン濃度のわずかの違いは、信号伝達ネットワークの枠組みや信号の流れ方の違いを引き起こすこともあり、濃度が変われば生理的効果も違ってくることは十分考えられます。しかし、このレベルでの理解は現在まだ十分ではありません。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「どうして最適温度が存在するか」は「最適濃度」の間違いと思いますのでそのつもりでお答えします。
(1)のご質問に対する生理学的な説明は、オーキシンによるエチレン生成がその原因とするものです。オーキシンを植物組織に与えるとエチレン生成がおきます。オーキシン濃度の増加とともにエチレン生成量も増加します。
エチレンは茎、根の伸長成長を阻害する作用があります。茎では、外から与えるオーキシン濃度が1マイクロモル程度までに生成されるエチレンはオーキシンの伸長促進効果を抑制するほど強くありませんが、オーキシンがそれ以上の濃度で生成されるエチレン濃度による伸長阻害効果はオーキシンの伸長促進効果よりも大きくなるために、伸長だけを指標とするとオーキシンの効果は最大の促進効果の後に次第に低下することになります。つまり見かけ上、最適濃度があるように見えます。ちなみに、オーキシンによるエチレン生成速度の増加を指標とすると、オーキシンは1ミリモル程度の高濃度まで促進効果が増加し最適濃度は観察されません。
(2)のご質問については、生理的濃度の範囲(最大0.1ミリモル程度)では最適濃度は観察されません。ジベレリンを過剰投与しても伸長促進やアミラーゼ形成効果は飽和した状態で、効果が低下するとする観察は報告されていません。その他の植物ホルモンについても同じと考えて差し支えないと思います。
しかし、ここで「生理的濃度の範囲」と制限を加えたのは、どのような物質でも過剰量を与えると特異的効果とは別の効果(生理的には害効果)が現れるのが通常だからです。また、植物ホルモン間には相互作用があります。1つの植物ホルモン濃度を変えると、すでに組織内にある別の植物ホルモンとの量比が変わりますので、相互作用の質が変わり別の効果が発現することもあります。
植物ホルモン信号伝達系の研究は最近たいへん進んでいます。確かに、オーキシンを始め植物ホルモンは遺伝子発現を調節していますが、最終的に生理作用をおこす(たとえば細胞伸長の作業をする)ために必要な遺伝子がどんなもので幾つあるのかなどはまだ分かっていません。また、その信号伝達系は直線的ではなく、途上にたくさんの抑制的遺伝子、促進的遺伝子などの発現とそれらの相互作用を介したネットワーク(ジャングルジムのような3次元的、時間軸を加えれば4次元的な)となっています。そのため、植物ホルモン濃度のわずかの違いは、信号伝達ネットワークの枠組みや信号の流れ方の違いを引き起こすこともあり、濃度が変われば生理的効果も違ってくることは十分考えられます。しかし、このレベルでの理解は現在まだ十分ではありません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-03-30
今関 英雅
回答日:2010-03-30