一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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道管の中身について

質問者:   大学生   沢谷
登録番号2164   登録日:2010-03-25
はじめて質問させていただきます沢谷と申します。

自分で調べていて道管の中の細胞質が消失するという事実はわかったのですが、その細胞質がどこに消えたのかがよくわかりません。蒸発してしまうなんて言うことはないと思いますので、どこかに核ごと細胞外に出てしまったのでしょうか。

周りには植物に詳しい方がおらず、質問させていただきました。よろしければご回答よろしくお願いいたします。
沢谷さま

植物は葉、茎、根といった組織ではそれぞれの組織の目的に必要な機能をもった細胞からできています。例えば、葉の組織の大部分を占める葉肉細胞とよばれる細胞には、光合成をするための葉緑体、呼吸でエネルギー(ATP)を生産するためのミトコンドリア、ミクロボデイー、小胞体、細胞核、液胞、など多くの細胞小器官が含まれています。これら細胞小器官は、原形質と共に太陽光のエネルギーを利用してCO2から植物の生育に必要な糖などの合成を進行させています。葉肉細胞に細胞核やタンパク質を合成するための小胞体などが備わっているのは、葉の細胞の一生の間に、葉緑体など細胞小器官の修復や葉の成長に応じて必要になる遺伝子情報、それによるタンパク質合成が必要なためです。

一方、根から水と無機養分が茎を経て葉にまで移動するためのパイプとなる道管、仮道管とよばれる細胞には、ご質問のように、葉肉細胞にある細胞核を初め細胞小器官、原形質はありません。植物の細胞も、動物と同じように受精した、めしべの受精卵の段階では1個の細胞ですが、これが、分裂、成熟を繰り返し種子になります。種子を発芽させるとめばえから、根、茎、葉がそれぞれ分化してきますが、この時、植物が成長するために絶対に必要な水、無機養分を根から輸送するためにできるのが道管と仮道管です。道管、仮道管の元の細胞は、初めの間は細胞核などをもつ普通の細胞ですが、細胞壁が厚くなり(この時にできる細胞壁を二次細胞壁とよんでいます)水、無機養分を運ぶパイプ専用になります。二次細胞壁ができ細胞が固くなると、不要になり、同時に水の移動を妨げる細胞核、細胞内小器官が分解されてしまいます。そのため、水の移動効率は高くなりますが、道管、仮道管はそれ以上細胞分裂することはできなくなります。このように細胞内部の細胞小器官、細胞核などを分解し、細胞が分裂できなくなる現象を、計画された細胞死の意味からプログラム細胞死とよんでいます。細胞死の言葉から植物にとってマイナスのイメージを与えるかもしれませんが、これは植物が成長するときしばしばみられる現象です。

樹木の枝、幹では道管、仮道管は木部の一部ですが、強固な二次細胞壁をもっているため、導管、仮導管を含む木部は、樹木を数百年、またはそれ以上も支えることに役立っています。動物と違って骨格をもっていない植物では木部が骨格の代わりをしています。このようにプログラム細胞死によってできた道管、仮道管は最初の年は水、無機養分の植物体内での移動に、そしてその後も植物の体を支えために役立ち、無駄に細胞が分裂できなくなり死んだわけではありません。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-04-12
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