一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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サクラの散るタイミングと受粉の関係

質問者:   一般   知りたがり屋
登録番号2174   登録日:2012-07-20
登録番号1950と類似です。
先週のNHKのニュースで「サクラの花は受粉するまでは散らないで咲いている。今年は花冷えでミツバチも来ないから受粉できずにがんばって咲いているので結果的に開花期間が長くなっている」と言っていたようですが、それは本当ですか?
また受粉するまでは強風、雨、人に花弁をひっぱられても花は散らない(がんばって咲き続ける)、受粉するまでは白くて受粉後にはなびらはピンクになる、と書いているブログも散見されますが、それも本当ですか? 学術的な根拠などあれば教えてください。
知りたがり屋 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
身近に多く見られるソメイヨシノを含むサクラを対象とした研究でご質問に直接お答えできる資料がありませんので、他の植物による研究からの推定でお答えすることにします。花が散る、落葉する、果実などが落ちる、などは脱離する部分に離層という層状の特別な組織ができ、離層細胞間の接着がゆるんではずれるためにおこる現象です。離層の形成は器官老化の1つの現れですが、花の場合は柱頭に花粉が付くことが刺激となって花弁の老化がはじまり花弁の基部に離層がつくられます。離層細胞の形成と細胞間の接着をゆるめる作業は細胞活動によりますので、その速さは温度の影響を受けます。咲いた後でも低温が続けば細胞活動も遅くなりますので接着をゆるめる作業は遅くなり離層形成も遅れます。気温の上昇でサクラが開花した後、何らかの原因で(たとえば花粉媒介者が少ないなど)受粉率が低下した時には咲いた花の離層形成が遅れます。その上、低温が続けばさらに離層形成が遅れますので花はいつまでも咲いていることになります。受粉と温度という2つの要因が花の持ちを決めているといえます。離層が完成しなければかなりの力が加えられても花は散りませんし、落葉もしません。緑葉が落ちにくいことと同じです。頑張って咲き続けるのか、散りたくても散れないのか、見方のちがいでしょうか。
受粉後に花色が変化するかどうかはっきりしません。サクラの花弁の発達と花色(アントシアニンの測定)との関係は1982年に神戸大学農学部の研究者が調べた報告がありました。ソメイヨシノ、ヒカンサクラなど花色程度の異なる6品種の花に含まれるアントシアニン量を蕾から開花前後まで毎日測定したところ、蕾が膨れて花弁が顔をだした頃(開花前10から14日)から色素量が増加し、開花前3日から開花日に最大量に達して、その後は減少することが分かりました。したがって、多くの品種では開花日前後がもっとも色素量が多いことのようです。測定によりますと、かなり赤く見えるヒカンサクラのアントシアニン量は花色の薄いソメイヨシノのおよそ20倍となっています。アントシアニンの合成には花弁が紫外線に当たることが必要です。開花後の色素量が増加しないのに目で見た花色が濃くなるように感ずるのはどうしてかを考えてみました。1つには、目で見る花色の程度は花弁表面の構造や他の助色効果を持つ非色素成分の共存によっても影響することが知られていますので、開花後の非色素成分の量が変わったことが考えられます。しかしその証拠はありません。2つ目には、受粉が刺激となって花弁が老化しはじめますが、細胞がくたびれてくるとアントシアニンをつくることが一般に観察されていますので花色が変化します。青いアサガオの花が赤くなったり、ワタやオクラの黄色い花が赤く変色したりすることは受粉後におこります。サクラの場合もそれ程極端ではないにしろ開花後の老化の進行にともなって花弁色が変化しますがご質問にある変化とは少し違うようです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-04-16
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