一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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黒豆色素の登熟度による分布変化・発色要因について

質問者:   一般   エレンちゃん
登録番号2175   登録日:2010-04-13
 農家の方から黒豆を頂き、皮を剥きますと緑から黒色に漸次変化することを子供(小学2年)が知り、興味を持ちました。できれば子供の自由研究テーマ候補にと考えていますが、適当な資料が見つかりません。黒豆の植物色素はアントシアニンが主と思いますが、その登熟度による分布変化や発色前後の要因、拡散方向における規則性などが報告されているようでしたらご教授頂けないでしょうか? 

 とりあえず、手元の豆(約30粒)で発色段階を観察しました。初期に胚芽周辺種皮に限局分布、後に下側に拡散(?)、全体に拡散していく印象を受けました。が、必ずしも強い規則性を感じるものではありません。
 貴HPにて、本色素は水溶性で生合成に光を必要としないが、光紫外線防御の役割から日照側に多く存在することに整合性があるらしい、ということを知りました。水溶性で移行が容易ならば、重力方向や日照状況にも左右されるのが乱れの原因かもと思ったりしています。例えば、色素は胚芽周辺から生成されて、重力下側に拡散するとか、光がよく当たる側から生成されるとか、もしくは酵素側に例えば胚芽周辺への分布特徴がある等々、全く素人仮設です。
 また質問箱にて、関連色素プロアントシアニジンは糖に関連して存在する、と記載されていました。名称からは黒色発色を担うアントシア二ンの前駆体のように思ったのですが、これらは異なる物質なのですか?

 尚、冷凍保存した外皮付黒豆資料(湯がかず、収穫2日後くらいで急速冷凍3-4か月)が未だ30粒ほど残っております。もしも発色に関しては、酵素反応を必要しない過程があるのでしたら、豆ホールを用いた何らかの実験も可能かと思うのですが、如何でしょうか。緑色から黒色への移行(発色)は、やはり酵素反応由来ですか?色素分布移動を再現することや、金属キレーションによる発色増強検証などは難しいでしょうか。また、黒豆資料の解凍方法次第で酵素活性を維持できる可能性は、やはり低いでしょうか?もしも、酵素活性が維持されていれば、日照による発色変化を経時的に観察できるかも、と思った次第です。

 以上、雑多な素人質問で誠に恐縮ですが、身近な試料での現象で小学生にも理科への興味導入素材として面白いと感じた次第です。どうぞ宜しくご教授お願いいたします。

               エレンちゃん
エレンちゃん さま

アントシアニンとよばれる植物色素は、基本構造(フラボノイド、C3-C6-C3構造)に糖が結合した配糖体で、側鎖の違いなどによって、これまで1,000種近くのアントシアニンが見出されています。これらの色素は細胞内で主に液胞に分布していますが、1)液胞のpHによって、2)アントシアニン分子同士の会合によって、3)フラボンとの会合によって、さらに、4)金属イオンとの配位によって、一種のアントシアニンでも多くの色を示し、アントシアニンは赤から紫、青から黒に至る広い範囲の色調をもっています。このようにアントシアニンは、植物の種によって、生育段階でも、さらに花、葉、種実、塊茎、根などの器官ごとに特有の、多彩な色調をもっています。

黒豆(ダイズが完熟した時に黒い種皮ができる品種)には、主なアントシアニン色素として配糖体であるシアニジンが含まれ、このダイズの種皮で黒色の主成分となっています。プロアントシアニジンは、アントシアニンの前駆体ではなく、アントシアニンとは構造が異なり、むしろタンニンに近い構造をもつ色素の総称で、例えば、ジャガイモ塊茎の皮(褐色)にみられる色素もその一つです。

さて、黒豆の種皮で上の2種の色素がどのようにして合成され、蓄積して種皮が黒くなってくるのかについてのご質問ですが、この様な植物の一生の終わりの段階の解析は、種をまいてから半年たたなければ、実験を始めることができず、簡単に実験を繰り返すことができません。めばえの実験であれが、一週間ごとに繰り返しいろいろの試みをテストできますが、この点、種子の成熟段階での実験は年に一度しか行うことができません。再現性のある結果を得るためには、テストする種子の成熟段階をきちっと決めることが必要です。ダイズの花が咲き、さやができてその中の種子がどの成熟段階から黒くなってくるかなど、栽培農家の方にお聞きして、黒くなる前の種子を用いることが必要です。さやを植物体から切り取ってしまうと、植物体から水、糖など、種子成分の合成のために送り込まれる成分が供給されなくなるので、植物体で成熟した種子との比較も必要です。

子供さんが見つけられた、ある程度成熟した種子を置いておくと色素合成がみられた現象を、毎年、観測できるようにするためには、上の点に注意し花が咲いてからの日数を決めることが必要です。まだ色素がたまっていない種子を凍結すれば細胞構造が壊れ、液胞にあると考えられる色素の前駆体が漏れ出てしまう恐れがあり、余りお勧めできません。まず、種子の成熟、着色をダイズの植物についたままで調べて、どの時期の成熟段階の種皮が急激に黒くなるかを調べ、そのデータを基に、一定の成熟段階の未着色種子を用いるようにすることが必要です。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-05-06