質問者:
会社員
だいふく
登録番号2177
登録日:2010-04-15
冬場に過剰の光エネルギーから身を守るために、鉄をため込んでいると聞きました。そこで植物体内にあるフリーの鉄イオンを測定したいと思っているのですが、もともと、植物は根から吸収した鉄は、イオンの状態で存在しているのかお教えください。
みんなのひろば
植物体内の鉄イオンとして
だいふく様
御質問の、どのような植物が冬になると鉄をため込むかはわかりませんが、植物での鉄の機能、鉄の吸収、鉄による障害、鉄の細胞内での貯蔵について考えてみたいと思います。
鉄は植物が生育するために土から吸収しなければならない16種の元素の内の1つであり、これが吸収できなくなると植物は鉄欠乏の症状、葉の緑色が薄く黄色になり極端な時は白色になり、成長できなくなります。鉄は光合成や呼吸、窒素同化、窒素固定、イオウ同化、その他多くの植物体内の酸化還元反応、生合成反応に関与するシトクローム、(ダイズの根粒のように窒素固定をする場合、動物のヘモグロビンに似た酸素を運ぶ)レグヘモグロビンなどのヘム鉄として、また、フェレドキシンなどのような非ヘム鉄として多くの電子伝達タンパク質、酵素タンパク質に結合し、機能しています。
鉄が含まれていない土壌では植物が生育できませんが、土壌に鉄が含まれていても、雨があまり降らない地域で土壌がアルカリ性になると、土壌の鉄が酸化されて3価(Fe(III)イオン)となって沈澱し、植物の根が吸収できなくなります。このような時、植物は根から酸を放出して鉄を溶けるようにして吸収する場合や、ムギネ酸のような鉄をキレートの形で吸収できるようにして対処しています。
この様に植物にとって鉄はその成長にとって絶対に必要ですが、しかし、細胞内に過剰の鉄イオンが遊離の状態で存在すると、次のような反応のために危険な状態になります。植物体内では、特に光合成をしている葉では、常に活性酸素が発生しています。これはご質問にありますように過剰の光エネルギーにさらされるとその発生量は多くなります。活性酸素による障害を抑えるため多くの酵素やアスコルビン酸のような抗酸化成分が活性酸素を消去しています。しかし、鉄イオン、とくに2価の鉄イオン、Fe(II)、が細胞内にあると、次の反応で過酸化水素(H2O2)から、活性酸素の内で最も反応性の高いヒドロキシル・ラジカル(OH)が生じます。H2O2と同時に発生するO2- (スーパーオキシド)がFe(III)からFe(II)を再生し、この反応によってH2O2からOHが連続的に生成するようになります。
H2O2 + Fe(II) OH + OH- + Fe(III)
Fe(III) + O2- Fe (II) + O2
OHは細胞内の成分を無差別に酸化し、細胞障害を引き起こすため、細胞内に遊離の鉄イオンが存在することは植物にとって非常に危険です。(動物にとっても同様で、ヒトでも鉄過剰症が知られています。)そのため、根から吸収した鉄イオンはファイトフェリチンとよばれるタンパク質(分子量;約44万)に結合した形で細胞内に蓄えられています。植物は土壌の条件によって鉄をいつも吸収できないこともあるため、ある程度の鉄を細胞内に蓄えておくことが必要ですが、細胞にとって最も危険な活性酸素であるOHが生じないように、遊離の鉄イオンではなく、ファイトフェリチンに結合した形で鉄を蓄えています。ご質問の植物が、なぜ冬の間に鉄をため込んでいるのかわかりませんが、遊離の鉄イオンは上のように植物にとって危険ですので、吸収された鉄はファイトフェリチンなどに結合した形で細胞内に蓄えられていると思われます。
御質問の、どのような植物が冬になると鉄をため込むかはわかりませんが、植物での鉄の機能、鉄の吸収、鉄による障害、鉄の細胞内での貯蔵について考えてみたいと思います。
鉄は植物が生育するために土から吸収しなければならない16種の元素の内の1つであり、これが吸収できなくなると植物は鉄欠乏の症状、葉の緑色が薄く黄色になり極端な時は白色になり、成長できなくなります。鉄は光合成や呼吸、窒素同化、窒素固定、イオウ同化、その他多くの植物体内の酸化還元反応、生合成反応に関与するシトクローム、(ダイズの根粒のように窒素固定をする場合、動物のヘモグロビンに似た酸素を運ぶ)レグヘモグロビンなどのヘム鉄として、また、フェレドキシンなどのような非ヘム鉄として多くの電子伝達タンパク質、酵素タンパク質に結合し、機能しています。
鉄が含まれていない土壌では植物が生育できませんが、土壌に鉄が含まれていても、雨があまり降らない地域で土壌がアルカリ性になると、土壌の鉄が酸化されて3価(Fe(III)イオン)となって沈澱し、植物の根が吸収できなくなります。このような時、植物は根から酸を放出して鉄を溶けるようにして吸収する場合や、ムギネ酸のような鉄をキレートの形で吸収できるようにして対処しています。
この様に植物にとって鉄はその成長にとって絶対に必要ですが、しかし、細胞内に過剰の鉄イオンが遊離の状態で存在すると、次のような反応のために危険な状態になります。植物体内では、特に光合成をしている葉では、常に活性酸素が発生しています。これはご質問にありますように過剰の光エネルギーにさらされるとその発生量は多くなります。活性酸素による障害を抑えるため多くの酵素やアスコルビン酸のような抗酸化成分が活性酸素を消去しています。しかし、鉄イオン、とくに2価の鉄イオン、Fe(II)、が細胞内にあると、次の反応で過酸化水素(H2O2)から、活性酸素の内で最も反応性の高いヒドロキシル・ラジカル(OH)が生じます。H2O2と同時に発生するO2- (スーパーオキシド)がFe(III)からFe(II)を再生し、この反応によってH2O2からOHが連続的に生成するようになります。
H2O2 + Fe(II) OH + OH- + Fe(III)
Fe(III) + O2- Fe (II) + O2
OHは細胞内の成分を無差別に酸化し、細胞障害を引き起こすため、細胞内に遊離の鉄イオンが存在することは植物にとって非常に危険です。(動物にとっても同様で、ヒトでも鉄過剰症が知られています。)そのため、根から吸収した鉄イオンはファイトフェリチンとよばれるタンパク質(分子量;約44万)に結合した形で細胞内に蓄えられています。植物は土壌の条件によって鉄をいつも吸収できないこともあるため、ある程度の鉄を細胞内に蓄えておくことが必要ですが、細胞にとって最も危険な活性酸素であるOHが生じないように、遊離の鉄イオンではなく、ファイトフェリチンに結合した形で鉄を蓄えています。ご質問の植物が、なぜ冬の間に鉄をため込んでいるのかわかりませんが、遊離の鉄イオンは上のように植物にとって危険ですので、吸収された鉄はファイトフェリチンなどに結合した形で細胞内に蓄えられていると思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-04-26
浅田 浩二
回答日:2010-04-26