一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ミズゴケの気孔と光合成について

質問者:   大学院生   ダリエ
登録番号2187   登録日:2010-05-03
現在、オオミズゴケ(Sphagnum palustre)を試料とした研究を行っています。その中で、ミズゴケの気孔と光合成について疑問が生じたため、質問させていただきました。

ミズゴケなどの蘚類は、図鑑などで調べますと「さくの頸部に気孔を持つ」ということですが、茎葉体の部分に気孔が存在しないのは何故なのでしょうか?ウキクサなどが水に浸かっていない葉の表面にのみ気孔を持つならば、ミズゴケも全体が水に浸かっているわけではないので気孔を持つ必要があると思うのですが。。。また、茎葉体に気孔が存在しないならば、さくを付けていない時の茎葉体はどのようにして二酸化炭素を取り込み光合成を行っているのでしょうか?

茎葉体の葉部分の顕微鏡観察も行ってみましたが、気孔のようなものは確認できませんでした。ミズゴケの生体構造に関する文献も少なく、困っております。御回答よろしくお願いします。
ダリエ様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。大学院で研究をされておられるとのことですので、なるべくご自分でお調べになると言う事を前提に、一般的な事だけを回答します。
ミズゴケはコケの仲間ですから、ウキクサのような種子植物とは全く異なります。光合成は藻類もシアノバクテリアも行いますが、これらは二酸化炭素を気孔を通して取り入れている訳ではありません。水中に溶けている炭酸イオンを直接取り入れているのです。ミズゴケの光合成はいわゆる葉で行われますが、葉は一層の2種類の細胞からできています。一つは大型の水分を貯蔵しいろいろ透明細胞(hyaline cells, hyalocytes) で、細胞壁は厚く螺旋状の繊維で強化されています。これらの細胞は死んだ細胞です。透明細胞に挟まって小さいな葉緑細胞(cholorophyllose cells , photosynthetic chlorocytes) があり、ここで光合成が行われるのです。光合成に必要な材料は透明細胞から供給されます。それでは朔の部分の気孔は何をしているのかということですが、この構造を疑似気孔(pseudo-stomata)と呼ぶ人もいるように、ふつうの植物にみられるガス交換のための構造とは違う機能をもつと考えられています。Duckett et al. (2009)(Exploding a myth: the capsule dehiscence mechanism and the function of pseudostomata in Sphagnaum. New Phytologists 183:1053-63) の研究によると、朔が乾燥するとき、気孔の孔辺細胞は徐々にしぼみ、カリウムイオンはそれに伴って増加するそうです。この点はふつうの気孔と逆です。かれらは、ミズゴケの朔の気孔は胞子体の乾燥と朔のさく裂のために役立っているのではないかと推論しています。また、陸上植物が現れたときの最初の気孔の役割はそれであり、ガス交換の機能は後なって獲得されたものだと示唆しています。詳しい事は原文を読んで下さい。ミズゴケの形態・構造に関しては形態学の書物をあたってみられたら良いでしょう。私の手元のある”Morphology of plants and fungi, 4th ed. by H.C.Bold, C. Alexopoulos, T.Delevoras, Harper Internatl. Ed., Harper & Row , Publishers, New York, 1980" には詳しい記述があります。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2010-05-06
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