一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ホルトノキの赤い葉について

質問者:   その他   国徳大也
登録番号0219   登録日:2005-02-25
お世話になります。初歩的な質問で恐縮ですがよろしくお願いします。

ホルトノキは季節に関係なしに常に少しだけ赤い葉が混じっています。

質問です。

1.赤い葉は紅葉でしょうか。紅葉だとしたら、普通言われる紅葉と同じ理屈だと理解していいでしょうか。
離層の形成にともなって起こるとすれば、季節に関わりなく、しかも木全体の1割にも満たない赤い葉があるのは理解しにくいことだと思いました。

2.紅葉でなかったらいかなる作用によるものなのでしょうか。

おいそがしいのにすみません。よろしくお願いします。
国徳 大也さま

 長らく回答が遅れてしまい申しわけありませんでした。年度末年度初めは、大学の行事が多くなかなか手が回らず失礼いたしました。

 常緑樹での紅葉はホルトノキだけでなく、クスノキなどにも見られる現象です。
常緑樹では、広葉樹のように一斉に葉を落とすことはありませんが、古くなった葉から順次落としてゆくのが特徴です。クスノキでは春の幼葉が赤く、秋の落葉では赤色や燈色、黄色、緑色など統一性は見られませんが、赤色の葉ではアントシアニンが蓄積されています。また、赤い幼葉にもアントシアニンが蓄積されています。
 ホルトノキでは、幼葉はあまり赤くならないようですが、落葉前に赤くなることが観察されています。一般的には、「植物の葉が緑から赤色あるいは黄色に変化すること」を紅葉と呼んでいますので、ホルトノキの赤い葉も紅葉と考えられます。
 カエデなどの紅葉は、低温や乾燥などの環境ストレスによって誘導されますが、常緑樹では紅葉誘導のメカニズムが異なるものと考えられます。古くからの仮説では、離層が形成されて養分の転流ができなくなることで、紅葉が誘導されるとされてきました。この仮説が正しいとしますと、カエデなどの広葉樹では、環境のストレスによって離層が一斉につくられ、紅葉が誘導されることになります。しかし、常緑樹では環境ストレスよりも、古い葉の老化が離層の形成を誘導し、紅葉が誘導されるものと考えられます。したがって、一斉にではなく、古い葉から順に紅葉が誘導されるのでしょう。ただし、離層形成の誘導に関しての研究は、残念ながら進んでいません。
 このように、常緑樹での紅葉は、外的な要因より内的な要因によって誘導されるものと思われますが、そのメカニズムは不明です。ただ、〔離層の形成⇒転流阻害⇒アントシアニンの合成と蓄積(紅葉)⇒落葉〕という現象には共通点が見られることから、ホルトノキの紅葉も、一般的な紅葉に共通するものと考えられます。ただし、葉が赤くなる意味については、いまだに解答が得られていません。

 百瀬 忠征(東京農工大学)
広報担当
三村
回答日:2009-07-03