一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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落葉果樹の貯蔵養分吸収について

質問者:   会社員   こいけ
登録番号2190   登録日:2010-05-06
初めて質問させて頂きます。
仕事がら各地で落葉果樹を見て歩くことが多く、以前より気になっていたことが有ります。
貯蔵養分の根からの吸収は何時行われているのかということです、一般的には落葉後に施した元肥が貯蔵養分になると思われているのですが、果してそれが確かに貯蔵養分になっているのか疑問に思うのです。

①秋根が伸長して貯蔵養分を吸収すると思っていましたが違うのでしょうか?
②①が正しいとすれば秋根が盛んに養分の吸収する時期と元肥の施用時期がズレているのでは?
③①が間違っているとすれば根からの貯蔵養分吸収はいつごろなされるのか?

以上の3点です宜しくお願いいたします。
こいけ 様

ご質問を有り難うございました。肥料の製造販売を本業としておられる方からの施肥に関する質問ですね。これには農研機構・果樹研究所の井上博道博士が回答文をご用意下さいましたのでご参考にして下さい。


(井上博士の回答)

落葉果樹の貯蔵養分は、果実の収穫後から落葉までに蓄えられる養分として考えられています。主要な肥料成分である窒素は、根で吸収されてそのまま貯蔵養分として蓄えられるのではなく、葉における光合成の作用によって有機化合物の形に変換され、それが根に蓄えられます。ですから、貯蔵養分として蓄えるには、葉が光合成を行える時期に窒素が吸収されなければなりません。果樹では収穫後に礼肥といって肥料を与えますが、これは貯蔵養分を蓄えるのに役立ちます。「一般的には落葉後に施した元肥が貯蔵養分になると思われている」とのことですが、落葉後の晩秋から冬季にかけて施肥される元肥によって貯蔵養分が蓄えられることは少ないので、残念ながら間違った情報が流れているのかもしれません。

と、いうことで、質問①については、質問者の思っていたことが正解に近いですが、「秋根が伸長して貯蔵養分を吸収する」というよりは「秋に生産された光合成産物を貯蔵する場所として秋根が利用される」というほうが正しいかと思います。

質問②は質問者の疑問のとおり、秋根が養分の吸収する時期と元肥の時期はずれています。落葉後に行う元肥は果樹が吸収できず、降雨、降雪等によりその多くは流亡すると考えられます。では、礼肥の時期に元肥をやればいいのではないかとも思われますが、秋は冬の休眠に入るための準備を行っている時期であり、その時期に多量の養分が土の中にあるとうまく休眠に入れないのではないかと考えられます・・・・人がおなかいっぱいではすぐに眠れないのと同じように。そのため春の芽が動き出す時期のちょっと前に元肥を与えるのが適当と考えられます。ただし、その方法が科学的に正しいやり方と証明されてはいませんので、いまのところは、これまで行われてきた晩秋での元肥施用が一般的です。とはいっても、晩秋での元肥施用も科学的知見に基づいたものではないと思いますので、今後、最適な施肥体系の構築が必要です。

更なる疑問がございましたら、改めて質問をお寄せ下さい。

井上 博道(農研機構・果樹研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-05-10
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