一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

コーヒーの栽培と標高について。

質問者:   一般   Sakipapa
登録番号2217   登録日:2010-06-09
コーヒー関係の仕事をしております。

中米産のコーヒー豆は栽培地の標高差で格付けされており、より高地で栽培されたものほど高値で取引される傾向があります。
高地で栽培されたものの方がコーヒー豆が堅く味が良いというのですが、栽培地の標高によってコーヒー豆(種子の胚乳というのでしょうか?)を形成する成分・養分等に違いがでるものなのでしょうか。
また、そういった高地で栽培されたものの方がコーヒー生豆と呼ばれる胚乳部のグリーンの色が強くなるように感じるのは何故でしょうか。
標高が関係ないのであれば、胚乳部の色の強弱や堅さは何が要因となるのでしょうか。
色々と調べてみたのですが、生育に時間がかかるからだとか、寒暖の差のためであるとか、なかなか具体的にコレだと納得できるものを見つけられずにおります。
自分の仕事としてだけではなく趣味としてもコーヒーについて色々と自身で勉強していきたいと思っておりますので、ご教示よろしくお願いいたします。
Sakipapa さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問はコーヒーの品質に関する問題ですが、特にコーヒーのような嗜好品の「品質」は人の「感じ方」「好み」が大きく影響しているもので、かなり人為的に定められている(そうだと思いこまされている)面が多々あり、科学的(化学的?)に説明することはできそうにありません。私どもがお答えできる範囲は多くの植物に共通する「一般的な」説明になりますのでご了承ください。
植物(に限らず生物)の生育は環境条件に大きく左右されます。温度、光(量、質ともに)、水分、湿度、土壌の質(栄養分の有無、偏り、有機質の多少、酸性かアルカリ性か、など)、風の強さ、方向などたくさんの要因が生育を支配しています。これらの要因は標高ばかりでなく地域、傾斜度などで違っています。そのため、同じ品種の作物を栽培しても地域によって作物としての品質が異なることはふつうに観察されていることです。葡萄酒のためのブドウの品質が同一品種でも栽培地によって大きく異なることは良く知られていることです。標高をとってみても、植物の花は標高の高いところでは鮮やかな色を示すのが普通ですが、同じ種を地元におろすと色が薄くなります。高原葉菜類は平地産のものより高い評価を受けているようです。コーヒーの生育、果実の生育なども標高によって違うことは当然で、果実の質、コーヒー豆の品質(たとえば香気成分の質、量など)も違ってくるはずです。きわめて多数の化学物質の組成がコーヒー(飲料としての)の評価に関与するはずですが、残念ながら、どのような環境の変化が、どのような成分組成の変化をもたらすかを予測できる段階ではありません。せいぜい、低温域では生育は遅くなるので、植物体を構成する成分が密になるとか(コーヒー豆が堅くなる?)、胚乳成熟が遅くなるので葉緑体崩壊が遅れる(緑色がいつまでも残る)、標高が高ければ紫外線の質、量ともに変わりますから香気成分や色素類の形成が変わる、といった程度のことを予測できるに過ぎません。もっとも、どのような成分組成であれば「美味しく」感じ、どんな割合になると「美味しくない」と感ずるのかなどは分かっていないと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-06-14