質問者:
一般
h.o
登録番号2222
登録日:2010-06-21
最近になってから、植物学に興味を持ち、素人ながら高校生物から勉強しなおしている者です。みんなのひろば
植物の無機窒素化合物の取り込みについて
植物が行う窒素同化において、窒素源は主に根から吸収した無機窒素化合物ですが、生物の教科書などには、無機窒素化合物として硝酸イオンとアンモニウムイオンを吸収すると記述してあります。そこでお伺いしたいのですが、どの植物も亜硝酸イオンは全く吸収しないのでしょうか?その毒性から、アンモニウムイオン(イネ科では異なりますが)や亜硝酸イオンを多量に吸収していることはないとは思いますが、少量ならば吸収しているのではないでしょうか?是非とも、ご教授をよろしくお願いいたします。
h.o さん
ご質問をお寄せ下さりありがとうございます。
素人の方からの簡単な質問に正しく答えることは、研究者にとっては時として難しい仕事です。ご質問に対しては、名古屋大学で窒素同化の研究に取り組んでおられる小俣達男先生が回答文をご用意下さいました。ご参考にして下さい。
(小俣先生からの回答)
高等植物で亜硝酸イオンの吸収を調べた研究例はきわめて少ないのですが、少量の亜硝酸イオンを与えれば植物はそれを吸収することができます。しかし、自然環境下や耕作地において植物が亜硝酸イオンをどの程度吸収しているかは不明です。「きわめて少量と推測されているが実験的根拠はあまりない」というのが実情です。
この問題を考える上で重要なポイントは「亜硝酸イオンを吸収する能力をもつことが外界の亜硝酸イオンを利用している証拠にはならない」 ということです。詳しい研究が行われている単細胞性緑藻やラン藻(シアノバクテリア)の場合、亜硝酸イオンを唯一の窒素源として増殖することができますし、さらに外界から細胞内へ亜硝酸イオンを効率的に運び込むための輸送体を持つこともわかっています。しかし、「亜硝酸イオン吸収の役割は、硝酸同化の中間産物である亜硝酸イオンが細胞外へ漏れ出た場合にそれを再回収すること」という説も有力です。亜硝酸イオン(NO2-)は弱酸イオンであるためにプロトン付加した亜硝酸(Nitrous acid =HNO2)になり易く、亜硝酸は細胞膜を透過し易いので、このような「漏れ」が特に問題になります。
さらに、外界の亜硝酸イオンを吸収利用するためには、実際に外界に亜硝酸イオンが存在している必要があります。高等植物の窒素源として教科書にアンモニアと硝酸イオンしか言及されていないのは、それら以外の窒素源が環境中にあまり存在しないという理由によるものです。畑のような好気的な環境では、肥料とした散布されたアンモニアはバクテリアによる「硝化作用」によって亜硝酸イオンを経て硝酸イオンに酸化されます。この2段階の酸化反応は、2種類のバクテリアによって分業される場合と1種類のバクテリアにより行われる場合がありますが、前者では細胞外に一旦亜硝酸イオンが流出し、後者でも細胞外に漏出する可能性があります。しかし、亜硝酸イオンの土壌中濃度が一般には低いため、植物の窒素同化に対する寄与も小さいだろうと推定されているのです。
しかし厳密に考えた場合、亜硝酸イオン濃度が低くても植物による吸収の可能性を排除することはできません。植物の根が亜硝酸イオンに対して高い親和性をもつ輸送体をもっていれば、低濃度の亜硝酸イオンでも植物に吸収される可能性があります。植物の根の亜硝酸イオン輸送体の研究は、緑藻やラン藻の場合に比べて遅れているため、現時点で確かなことは言えないのですが、有意な量の亜硝酸イオンが植物によって吸収・同化されている可能性は残されています。
(光合成生物で、主な窒素源として亜硝酸イオンを利用している可能性が高いのは、外洋に分布する一部の海洋性ラン藻です。これらは硝酸還元酵素を欠いているが亜硝酸還元酵素を有しており、またその生育環境には有意な量の亜硝酸イオンが蓄積していることが報告されています。)
小俣 達男(名古屋大学大学院生命農学研究科・生物機構・機能科学専攻・分子細胞機構学講座)
ご質問をお寄せ下さりありがとうございます。
素人の方からの簡単な質問に正しく答えることは、研究者にとっては時として難しい仕事です。ご質問に対しては、名古屋大学で窒素同化の研究に取り組んでおられる小俣達男先生が回答文をご用意下さいました。ご参考にして下さい。
(小俣先生からの回答)
高等植物で亜硝酸イオンの吸収を調べた研究例はきわめて少ないのですが、少量の亜硝酸イオンを与えれば植物はそれを吸収することができます。しかし、自然環境下や耕作地において植物が亜硝酸イオンをどの程度吸収しているかは不明です。「きわめて少量と推測されているが実験的根拠はあまりない」というのが実情です。
この問題を考える上で重要なポイントは「亜硝酸イオンを吸収する能力をもつことが外界の亜硝酸イオンを利用している証拠にはならない」 ということです。詳しい研究が行われている単細胞性緑藻やラン藻(シアノバクテリア)の場合、亜硝酸イオンを唯一の窒素源として増殖することができますし、さらに外界から細胞内へ亜硝酸イオンを効率的に運び込むための輸送体を持つこともわかっています。しかし、「亜硝酸イオン吸収の役割は、硝酸同化の中間産物である亜硝酸イオンが細胞外へ漏れ出た場合にそれを再回収すること」という説も有力です。亜硝酸イオン(NO2-)は弱酸イオンであるためにプロトン付加した亜硝酸(Nitrous acid =HNO2)になり易く、亜硝酸は細胞膜を透過し易いので、このような「漏れ」が特に問題になります。
さらに、外界の亜硝酸イオンを吸収利用するためには、実際に外界に亜硝酸イオンが存在している必要があります。高等植物の窒素源として教科書にアンモニアと硝酸イオンしか言及されていないのは、それら以外の窒素源が環境中にあまり存在しないという理由によるものです。畑のような好気的な環境では、肥料とした散布されたアンモニアはバクテリアによる「硝化作用」によって亜硝酸イオンを経て硝酸イオンに酸化されます。この2段階の酸化反応は、2種類のバクテリアによって分業される場合と1種類のバクテリアにより行われる場合がありますが、前者では細胞外に一旦亜硝酸イオンが流出し、後者でも細胞外に漏出する可能性があります。しかし、亜硝酸イオンの土壌中濃度が一般には低いため、植物の窒素同化に対する寄与も小さいだろうと推定されているのです。
しかし厳密に考えた場合、亜硝酸イオン濃度が低くても植物による吸収の可能性を排除することはできません。植物の根が亜硝酸イオンに対して高い親和性をもつ輸送体をもっていれば、低濃度の亜硝酸イオンでも植物に吸収される可能性があります。植物の根の亜硝酸イオン輸送体の研究は、緑藻やラン藻の場合に比べて遅れているため、現時点で確かなことは言えないのですが、有意な量の亜硝酸イオンが植物によって吸収・同化されている可能性は残されています。
(光合成生物で、主な窒素源として亜硝酸イオンを利用している可能性が高いのは、外洋に分布する一部の海洋性ラン藻です。これらは硝酸還元酵素を欠いているが亜硝酸還元酵素を有しており、またその生育環境には有意な量の亜硝酸イオンが蓄積していることが報告されています。)
小俣 達男(名古屋大学大学院生命農学研究科・生物機構・機能科学専攻・分子細胞機構学講座)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-06-21
佐藤 公行
回答日:2010-06-21