質問者:
その他
tinycourage
登録番号2229
登録日:2010-06-23
オーム社の『ベーシックマスター植物生理学』にて勉強中の、家庭菜園を趣味としている者です。みんなのひろば
植物体内における過酸化水素濃度
以前より、降雨時に気孔より病原菌が侵入することによって発生する黒とう病等の病気に悩まされていました。
そんな中、気孔開閉機構について勉強しておりましたところ、気孔が閉じる際、孔辺細胞のアブシジン酸受容体がアブシジン酸を受容し、過酸化水素(活性酸素種)を細胞内に放出するという記述があり、このことを応用して天気が不安定な時期に、降雨時に気孔が開いたままの状態になる時間を減らし、前述の病気の予防に役立てる事ができるのではと思うに至りました。
もっとも、活性酸素種の働きは多岐に及ぶとありましたので、簡単にはいかないとは思われますので、希釈過酸化水素水溶液を噴霧器にて散布し、対象の植物に対してどういった影響が出るのかを気孔の開閉の変化を中心に観察を試みようと考えました。
しかしながら、気孔開閉機構および植物体内においておよそどの程度の濃度で活性酸素種が働いているのかについて文献がなかなか見つからないため、ご教授いただければと思う次第です。
不躾ではございますが、何卒よろしくお願いいたします。
Tinycourageさま
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は一般に、植物が水ストレスにさらされ、植物の水分含量が低くなると、これが信号となって根などで合成されます。ABAは葉に移動すると、水を余り失わないように気孔を閉じる作用をもっていますが、ABAが気孔を閉じるのに直接、作用するのではなく、ABAが活性酸素を生成するように作用し、活性酸素がシグナルとなって気孔を閉じる作用を促進することが示されています。
活性酸素はミトコンドリア、太陽光を浴びている葉緑体、さらに細胞膜などに結合しているNADPH-オキシダーゼで生じますが、活性酸素が多量に生成すると、細胞成分を酸化-分解するため、活性酸素の生成サイトには必ず活性酸素を消去する酵素や成分があり、細胞成分が活性酸素によって酸化-分解を受けないようにしています。
活性酸素は細胞成分を酸化-分解するだけでなく、1)活性酸素を消去する酵素の合成などを促進し、活性酸素による細胞障害を抑制するための細胞シグナルとして、また、2)活性酸素によって植物病原菌、カビなどを“殺菌“する作用も証明されています。このための活性酸素は、細胞の特定のオルガネラ(葉緑体、ミトコンドリアなど)や細胞膜などに結合しているNADPH-オキシダ―ゼによって、細胞内の特定の位置でABAなどが信号となって活性酸素を生成し、この活性酸素が細胞シグナル作用、殺菌作用を誘導すると考えられています。太陽光照度も高くなると、葉緑体での活性酸素の生成が増加します。
しかし、活性酸素は、それが生成したその場で直ちに消去されなければ細胞成分が酸化され、酸化障害を引き起こすことから、上に述べたシグナル作用、殺菌作用を示す活性酸素は細胞全体に生ずるのではなく、シグナルの標的分子、病原菌がある近くでのみ、生ずると考えられています(Physiologia Plantarum, 138: 430-439 (2010)。
ご質問の過酸化水素(H2O2)は活性酸素の一種ですが、この他に活性酸素としてスーパーオキシドラジカル、一重項酸素、ヒドロキシルラジカルなどがあります。活性酸素の寿命は短く、細胞内の特定の狭い範囲で生成、消去、作用をするため、それぞれがどの濃度で最も効果的に作用するかを見積もることは困難です。また、過酸化水素を葉に散布すれば、シグナル標的分子のあるサイト、病原菌のあるサイトなど、限られたサイトばかりでなく、過酸化水素が細胞全体に吸収されるため、過酸化水素によって細胞成分が酸化-分解(酸素障害)を受けることは避けられません。そのため葉に酸素障害を与えずにシグナル、殺菌だけに有効な過酸化水水素処理は困難と思われます。しかし、光合成や成長に少し障害があっても、病原菌による害を防ぐことができればよいといったことであれば、0.1 mM(ミリモル) の過酸化水素濃度の液を1/10倍、1/100倍----------希釈で散布テストされてはと思います。葉緑体の光合成(CO2固定)は0.4 mM過酸化水素によって90%阻害されるので、0.1 mMレベル以下の過酸化水素液でテストされるのが適当でしょう。これらのテストは植物の種類、成長の段階、環境温度、太陽光照度などでも大きく影響を受けるため、できるだけ同じ実験条件で比較することが大切です。
植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)は一般に、植物が水ストレスにさらされ、植物の水分含量が低くなると、これが信号となって根などで合成されます。ABAは葉に移動すると、水を余り失わないように気孔を閉じる作用をもっていますが、ABAが気孔を閉じるのに直接、作用するのではなく、ABAが活性酸素を生成するように作用し、活性酸素がシグナルとなって気孔を閉じる作用を促進することが示されています。
活性酸素はミトコンドリア、太陽光を浴びている葉緑体、さらに細胞膜などに結合しているNADPH-オキシダーゼで生じますが、活性酸素が多量に生成すると、細胞成分を酸化-分解するため、活性酸素の生成サイトには必ず活性酸素を消去する酵素や成分があり、細胞成分が活性酸素によって酸化-分解を受けないようにしています。
活性酸素は細胞成分を酸化-分解するだけでなく、1)活性酸素を消去する酵素の合成などを促進し、活性酸素による細胞障害を抑制するための細胞シグナルとして、また、2)活性酸素によって植物病原菌、カビなどを“殺菌“する作用も証明されています。このための活性酸素は、細胞の特定のオルガネラ(葉緑体、ミトコンドリアなど)や細胞膜などに結合しているNADPH-オキシダ―ゼによって、細胞内の特定の位置でABAなどが信号となって活性酸素を生成し、この活性酸素が細胞シグナル作用、殺菌作用を誘導すると考えられています。太陽光照度も高くなると、葉緑体での活性酸素の生成が増加します。
しかし、活性酸素は、それが生成したその場で直ちに消去されなければ細胞成分が酸化され、酸化障害を引き起こすことから、上に述べたシグナル作用、殺菌作用を示す活性酸素は細胞全体に生ずるのではなく、シグナルの標的分子、病原菌がある近くでのみ、生ずると考えられています(Physiologia Plantarum, 138: 430-439 (2010)。
ご質問の過酸化水素(H2O2)は活性酸素の一種ですが、この他に活性酸素としてスーパーオキシドラジカル、一重項酸素、ヒドロキシルラジカルなどがあります。活性酸素の寿命は短く、細胞内の特定の狭い範囲で生成、消去、作用をするため、それぞれがどの濃度で最も効果的に作用するかを見積もることは困難です。また、過酸化水素を葉に散布すれば、シグナル標的分子のあるサイト、病原菌のあるサイトなど、限られたサイトばかりでなく、過酸化水素が細胞全体に吸収されるため、過酸化水素によって細胞成分が酸化-分解(酸素障害)を受けることは避けられません。そのため葉に酸素障害を与えずにシグナル、殺菌だけに有効な過酸化水水素処理は困難と思われます。しかし、光合成や成長に少し障害があっても、病原菌による害を防ぐことができればよいといったことであれば、0.1 mM(ミリモル) の過酸化水素濃度の液を1/10倍、1/100倍----------希釈で散布テストされてはと思います。葉緑体の光合成(CO2固定)は0.4 mM過酸化水素によって90%阻害されるので、0.1 mMレベル以下の過酸化水素液でテストされるのが適当でしょう。これらのテストは植物の種類、成長の段階、環境温度、太陽光照度などでも大きく影響を受けるため、できるだけ同じ実験条件で比較することが大切です。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-07-04
浅田 浩二
回答日:2010-07-04