一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

蒸散の機構の詳細

質問者:   一般   渡邉 博文
登録番号2231   登録日:2010-06-25
葉の表面からアミノ酸が滲出する機構に付いて調べています。その過程で蒸散の機構について知る必要が出てきました。蒸散の役割、気孔蒸散とクチクラ蒸散の違い等は、あちこちで説明されています。しかしながら蒸散の機構に関する具体的な説明は見付かりません。お教え頂きたい事項は次の通りです。

1.クチクラ蒸散
  水は、細胞膜、細胞壁、クチクラ層のどの部分で相変化しているのか。その場合、上の3つの層をどのような原理で通過しているのか。

2.気孔蒸散
  根から葉への水の吸い上げが、水の蒸発、引圧の発生、連通管の原理の組み合わせで説明されています。蒸発面はどこですか。葉の内部の空間部分(細胞以外の部分)は、水で満たされているのですか。満たされていないとしたら連通管の基点はどこになりますか。
渡邉 博文様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。前にも一度回答を担当させていただいたことがあるとおもいます。今回の質問は専門的な側面も含まれており、どこまで詳しくお答えするかによって、この問題を研究されている方に、専門的な説明をいただかねばなりません。しかし、本コーナーの目的は専門的な研究上のアドバイスをするのが目的ではありませんので、ここでは、私がお答えできる範囲で簡単に説明いたします。なお、植物体中の水の移動と蒸散については、過去に様々な観点から質問がありますので、「蒸散」および「水の移動」の項目で検索していただき、それらへの回答を読んでいただくと、一部は参考になる回答記述があります。また、植物生理学の教科書(例えばテイツ/ザイガー植物生理学教科書、培風館など)を参考にされるのもよいでしょう。

[回答]
植物体表からの水の蒸散はクチクラ蒸散にしろ気孔蒸散にしろ、水が液体から気体へ相転換するという点では同じです。クチクラ蒸散では植物の体表を覆うクチクラ層から、そこへ内部から到達した水が水蒸気となって空気中に「蒸発」現象です。濡らした紙の表面から水が蒸発素するのと物理現象として変わりわりはありません。クチクラ蒸散はクチクラ層の程度によって異なりますが、植物体全体の蒸散量の精々多くて10%くらいと見積もられています。クチクラは化学的にも水を通しにくいのですが、クチクラ層には下の細胞壁から水が滲み上がってくる裂け目のような物があります。クチクラ層を水または水溶性物質がどのように通過できるかについては登録番号1969の回答を読んで下さい。また。更にくわしいことは養賢堂の『植物栄養土壌肥料大辞典』の中の「植物における葉面吸収と散布」の項をご覧になると良いのではないかと思います。細胞壁はセルロース繊維を主体とする繊維構造がありますから、そこを水が通るのは毛細管現象で起きる移動と同じです。細胞壁は水で満たされていると持って下さい。次に、この水はどこからくるかといいますと、連続した細胞壁構造(アポプラストという)を伝わってくる事も可能ですが、細胞の内部から細胞膜を透過してきます。根から吸収され通道組織に入った水は、葉やその他の組織の細胞へと供給されるとき、細胞膜にある細孔(水チャンネル)によって細胞内へと取り込まれます。その時アクアポリンというタンパク質が水の細孔通過を担っています。(アクアポリンについては登録番号1344,登録番号0531,登録番号1026 を呼んで下さい。)細胞内を通過する経路はシンプラストと呼んでいます。水はアクアポリンによる積極的な取り込みの他、ゆっくりではあるが細胞膜を自由に出入りしています。
気孔蒸散の場合は気孔内部の呼吸腔の表面からおこなわれます。呼吸腔表面もクチクラ層がありますが、おそらく葉の表皮のように厚くないのかもしれません。つまり、他の葉の表皮の表面より水が蒸発しやすいと考えて下さい。

ご質問のなかの連通管という言葉は植物学では使いませんが、何をさしているのですか。また、引圧という言葉も分からないではありませんが、「陰圧=negative pressure」の事かと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見  允行
回答日:2010-06-28