一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の枝に住む乳酸菌について

質問者:   一般   とーこ
登録番号2235   登録日:2010-06-30
 あるテレビ番組で、サンシュユという木からヨーグルトがつくれることを知り、早速試してみました。40℃に温めた牛乳にサンシュユの木の枝を浸し、そのままこたつで保温しながら放置。すると、見事に牛乳が固まり、ヨーグルト臭までしていました。ただちょっと不安だったので食べることまでは出来ませんでした。
 さらに・・・と思い、他の樹木の枝を使って試してみると、これまた見事に固まりました。
 キムチなどの発酵食品もあるので、植物の中にも乳酸菌が住んでいるのかな?とは感じていますが、実際に、どのような乳酸菌が住んでいるのでしょうか。それから、樹木の枝で作ったヨーグルトは食べても大丈夫なのでしょうか。
とーこ様

お待たせしました。下記乳酸菌に関する質問への回答を送ります。日本乳酸菌学会の会長である石川県立大学の山本憲二教授のはからいで、明治乳業の研究所から移られて現在科学技術振興事業団のコーディネーターをなさっている佐々木 隆先生に回答していただきました。TV番組を見て、ご自分ですぐ試してみるという高い好奇心と実行力には敬意を表します。しかし、回答の中にもあるように、できたヨークルト(ヨーグルトもどき?)は食しても安全かどうかは保証がありませんので、注意された方が良いかとおもいます。


[回答]
ブルガリアでは伝統的なホームメイドヨーグルトはCornus masなどの植物の葉を牛乳に浸し、固まったものを種として牛乳を発酵させて作ったと言われています。(現在はごく一部の地域でのみ行われています)
まず、ヨーグルトですが、2種の乳酸菌、すなわち、ブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)とサーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)によって作られます。これらの乳酸菌がブルガリアの植物から実際に分離されることが最近報告されました。(文献は、FEMS Microbiol Lett. 2007 Apr; 269(1):160-9. Epub 2007 Jan 25. “Isolation and characterization of Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus and Streptococcus thermophilus from plants in Bulgaria.” Michaylova M, Minkova S, Kimura K, Sasaki T, Isawa K.です)したがって、ブルガリア以外の地域の西洋山茱萸(Cornus mas)などにもこれらの乳酸菌がいる可能性はありますが、検討されていないせいかこれを確認した他の報告はまだありません。

さて、ご質問にお答えします。
1)樹木にどのような乳酸菌がいるか?
乳酸菌は、約20属200種以上からなる多様な細菌の集合です。様々な環境に生息していて植物からもいろいろな乳酸菌が分離されます。牛乳が固まったという点から判断すると、(乳酸菌であるならば)牛乳の主要な糖である乳糖を分解できる乳酸菌種がいると言えます。しかし、具体的な種名は調べないとわかりません。
2)「サンシュユの枝を浸したら牛乳が固まったが食べてもよいか?」
上記の文献では、Cornus masなどブルガリアの植物から分離された乳酸菌が、実際のヨーグルト製造に使われている上記2種の乳酸菌と違いがなく、ヨーグルトの品質も同一であったと報告されています。しかし、樹木の枝を浸して牛乳が固まったからといってヨーグルトと同じものができたとは判断できません。牛乳の凝固は微生物が繁殖して酸を出した結果だと考えられますが、それが乳酸菌かどうかは不明であり、乳酸菌以外の細菌や酵母・カビなども考えられます。微生物学的観点からは、食経験のある乳酸菌が牛乳を凝固させたこと、いわゆる雑菌や病原菌がいないことなどを調べない限り安全だとは言えません。したがって、そのようなものは食べないほうが賢明でしょう。ただし、もし日本の樹木からヨーグルト製造に用いられる上記2種の乳酸菌が分離されるとしたら科学的には興味深いと言えます。

佐々木 隆(科学技術振興事業団)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2010-07-14
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